商業登記関係 一般社団法人において一人に複数の議決権を持たせることはできるか
一般社団法人と社員総会
一般社団法人には社員総会という機関があり、社員総会は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、「法人法」といいます。)に規定する事項や、一般社団法人の組織、運営、管理その他一般社団法人に関する一切の事項について決議をすることができます(法人法第35条1項)。
社員総会では各社員が1人1個の議決権を有していて(法人法第48条)、社員総会の議案について決議をしていくことになります。
社員総会の開催と議案に対する決議要件(普通決議、特別決議)については、次の記事をご参照ください。
株式会社と属人的株式
株式会社においては属人的株式という仕組みがあります。
属人的株式とは次の3つの権利に関して、その持ち株数にかかわらず、株主ごとに異なる取扱いができる株式のことをいいます(会社法第109条2項)。
一般社団法人においても、株式会社の属人的株式のような仕組みを取り入れることはできるのでしょうか。
特定の社員に複数の議決権を持たせる
社員1人につき社員総会における議決権数は1個が原則ですが、定款に定めることにより、1人に複数の議決権を持たせることも可能とされています(法人法第48条1項)。
(議決権の数)
法人法第48条1項社員は、各1個の議決権を有する。ただし、定款で別段の定めをすることを妨げない。
社員ABCがいる一般社団法人において、Aは議決権10個、BとCは議決権1個という定款の定めもOKということになります。
社員総会で議決権を行使する社員がいない
社員総会において決議をする事項の全部につき社員が議決権を行使することができない旨の定款の定めは、その効力を有しないとされています(法人法第48条2項)。
社員が社員総会において、全ての議案について議決権を行使することができなくなってしまうと社員総会の決議を成立させることができなくなってしまいます。
登記は不要
社員の議決権に関する事項は登記事項ではありません。
そのため、社員の議決権に関する定款の変更を行った場合でも登記手続きは不要です。
決議要件に関する注意点
1人の社員に複数議決権を付与した場合、特に社員総会の特別決議については注意が必要です。
一般社団法人の特別決議要件は、原則として、総社員の半数以上であって、総社員の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければなりません(法人法第49条2項)。
社員ABCがいる一般社団法人(Aの議決権は10個、BCの議決権は1個)では、Aが議決権の3分の2以上を有してはいるものの、A単独では特別決議を成立させることができないということになります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。