商業登記関係 (株式会社)種類株主総会の決議を排除できる事項・できない事項
種類株式と種類株主総会
内容の異なる2以上の種類の株式(種類株式)を発行している株式会社において、一定の事項を行うときに、種類株主総会の決議や種類株主全員の同意が求められることがあります。
種類株主総会の決議等が必要な事項につき、当該種類株主総会の決議を忘れてしまうとその効力を発生させらないので注意が必要です。
普通株式・A種株式を発行している株式会社が、普通株式を目的とする新株予約権を発行したり(定款でその決議を排除していない場合)、B種株式を新たに発行するときに、普通株主による種類株主総会の決議が忘れられやすいかもしれません。
また、議決権が制限された株式(無議決権株式)を保有する株主には種類株主総会の議決権も無いと勘違いがされているケースもあります。
種類株主総会と定款の定めによる決議の排除
種類株主総会の決議等が必要な事項につき、定款でその決議を排除できる事項があります。
種類株主総会の決議等が必要な事項、定款でその決議を排除できる事項・できない事項の一覧は次のとおりです。
A種株式の発行 | 第199条4項 | |
A種株式の発行に関する募集事項の委任 | 第200条4項 | |
A種株式を目的とする募集新株予約権の発行 | 第238条4項 | |
A種株式を目的とする募集新株予約権の発行に関する募集事項の委任 | 第239条4項 | |
A種株式に取得条項を新たに設定 | 第111条1項 | |
A種株式の取得条項の内容の変更(廃止を除く) | 第111条1項 | |
A種株式に譲渡制限を新たに設定 | 第111条2項 第324条3項1号 |
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A種株式に全部取得条項を新たに設定 | 第111条2項 第324条2項1号 |
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次の行為をする場合において、A種株主に損害を及ぼすおそれがある場合 (1)株式の種類の追加 (2)株式の内容の変更 (3)発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加 | 第322条2項 第322条3項 |
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次の行為をする場合において、A種株主に損害を及ぼすおそれがある場合 (1)株式の併合又は株式の分割 (2)株式無償割当て(会社法第185条) (3)株主割当てにより募集株式の発行(会社法第202条) (4)株主割当てにより募集新株予約権の発行(会社法第241条) (5)新株予約権無償割当て(会社法第277条) (6)合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転、株式交付 | 第322条2項 | |
組織再編行為において、その対価が持分会社の持分である場合や、譲渡制限株式等であるときにおける一定の場合 | 第783条4項 第795条4項 第804条3項 第816の3第3項 |
議決権制限株式と種類株主総会の決議
議決権制限株式についてよくある誤解として、議決権を制限しているのだから一切の議決権を有さないというものがあります。
株主総会においては確かにその通りではありますが、それはあくまで株主総会を対象としたものであり、当該種類株主総会においては議決権を有しています。
実務的には、議決権制限株式に後から譲渡制限、取得条項あるいは全部取得条項を新たに設定することはあまり無いでしょうから、上記のうち定款の定めで種類株主総会の決議を排除できるものは排除しておくことが多いかもしれません。
なお、会社法第322条1項1号の行為に関しては、定款に定めてもその種類株主総会の決議を排除することはできませんので、経営者株主等が議決権制限株式の3分の2を保有しておく等の対策が考えられます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。