商業登記関係 種類株式の基本
種類株式とは
種類株式とは、株式会社が発行することのできる、剰余金の配当が優先されている、あるいは議決権を制限されているなどの権利の内容が異なる株式のことをいいます。つまりは2種類以上の権利の内容が異なる株式が発行されて(厳密にいうと2種類以上の権利の内容が異なる株式を発行することができる会社となって)初めて各株式のことを種類株式といえる、ということになります。実際に2種類以上の権利の内容が異なる株式を発行している必要はありません。
一般的な表現である「普通株式」も、2種類以上の権利の内容が異なる株式を発行することができる会社においては、種類株式といえます。
種類株式一覧
種類株式の内容は次のとおりであり、組み合わせは自由ではありますが、会社の形態(公開会社であるかどうかなど)によっては一部の種類株式を採用することはできないことがありますので、種類株式を設計する場合は専門家に確認してください。
剰余金配当にかかる株式 | 他の種類株式に比べて有利、不利な条件で配当を受ける権利がある株式 ≫剰余金優先配当株式 |
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残余財産分配にかかる株式 | 他の種類株式に比べて有利、不利な条件で残余財産の分配を受ける権利がある株式 ≫残余財産の分配に関する種類株式 |
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議決権制限株式 | 株主総会において、全部または一部の議案につき議決権を行使することができない株式 ≫議決権制限株式 |
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譲渡制限株式 | 株式を譲渡する際に、発行会社の承認を要する株式 ≫株式の譲渡制限の定め |
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取得請求権付株式 | 発行会社に、発行会社が取得することを請求できる株式 ≫取得請求権付株式 |
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取得条項付株式 | 一定の事由を条件として、発行会社がその株式を取得することができる株式 ≫取得条項付株式の設定と発行 ≫取得条項付株式の取得事由の発生と取得手続き |
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全部取得条項付株式 | 株主総会の特別決議によって、その全部の株式を取得することができる株式 | |
拒否権付株式 | 株主総会において決議すべき事項につき、承認をしないことができる株式 (拒否権付株式による種類株主総会の承認も必要とすることができる株式) ≫拒否権付種類株式 |
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取締役、監査役選解任権付株式 | 取締役、監査役を選任、解任することができる株式 (株主総会の取締役、監査役の選解任権を奪うことができる株式) ≫役員(取締役・監査役)選任権付種類株式 |
以下、基本的な点のみ1つずつ見ていきます。
①剰余金配当に関する株式
株式会社は剰余金の配当について内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます。他の株式より配当を優先される株式、他の株式より配当が劣後する株式、全く配当のない株式などの設定方法があります。
剰余金の配当も残余財産の分配もない種類株式
剰余金の配当を受ける権利及び残余財産の分配を受ける権利の、両方を全く与えない種類株式は認められていません(会社法第105条)。
②残余財産分配に関する株式
株式会社は残余財産の分配について内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます。他の株式より分配を優先される株式、他の株式より分配が劣後する株式、全く分配のない株式などの設定方法があります。
③議決権制限株式
株式会社はその株主総会において議決権を行使することができる事項につき、制限がある株式を発行することができます。この制限がある株式を、議決権制限株式といいます。
全ての事項について議決権を行使できる株式、全ての事項について議決権を行使することができない株式、特定の事項についてのみ議決権を行使することができる株式などの設定方法があります。
議決権制限株式の全体に対する割合
公開会社では議決権制限株式の数が、その会社の発行済株式総数の2分の1を超える場合は、その割合を2分の1以下にするための措置をとらなければなりません(会社法第115条)。公開会社以外の会社にはこの義務はありません。
④譲渡制限株式
株式会社は譲渡による株式の取得について、その全部または一部につき、当該株式会社の承認を要する株式を発行することができます。この譲渡に承認を要する株式を、譲渡制限株式といいます。ここでいう譲渡には、合併や相続などの一般承継は含まれません。
公開会社
公開会社の定義は、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けている株式会社以外の会社、であり、公開会社であるのか公開会社でないのかは会社の機関設計などに大きな違いをもたらすため、譲渡制限株式の設定の有無は大きな区分といえます。
上場している会社を除き、多くの会社では株式の全部を譲渡制限株式としているのが現状です。
⑤取得請求権付株式
株式会社はその全部または一部につき、株主が当該株式会社に対して、当該株式を取得するよう請求することができる株式を発行することができます。この株式を取得請求権付株式といいます。株主側から取得を請求することができるのが、この株式の特徴です。
取得請求をすることができる期間、その対価などは、取得請求権付株式にかかる定款変更時に定められた内容に従うことになりますが、取得請求時に対価として交付される財産が分配可能額を超えてしまっている場合は、取得請求をすることができません(会社法第166条)。
⑥取得条項付株式
株式会社はその全部または一部につき、一定の事由が生じたことを条件として、当該株式会社が当該株式を取得することができる株式を発行することができます。この株式を取得条項付株式といいます。この取得の際に株主の同意は不要です。
取得条項(株式を会社が取得することができることになる一定の事由)、その対価などは、取得条項付株式にかかる定款変更時に定められた内容に従うことになりますが、当該株式の取得時に対価として交付される財産が分配可能額を超えてしまっている場合は、取得請求をすることができません(会社法第170条)。
⑦全部取得条項付株式
株式会社は株主総会の特別決議により、ある種類の株式の全部を会社が取得することができる内容の株式を発行することができます。この(取得される)株式を全部取得条項付株式といいます。
いわゆる100%減資やスクイーズアウトを実施する際に利用されています(いました)。
平成26年改正会社法
平成26年改正会社法により、全部取得条項付株式を取得する際には、事前情報開示及び事後情報開示が必要となりました。
⑧拒否権付株式
株式会社は株主総会、取締役会において決議すべき事項につき、株主総会決議、取締役会決議の他に、ある種類株主による種類株主総会の決議も必要とすることを内容とする種類株式を発行することができます。この種類株式を、株主総会または取締役会で決議したことに対してNOと言えることから、拒否権付株式といいます。
例えば、当会社が吸収合併や新設合併を行う場合には、株主総会決議の他に拒否権付株式による種類株主総会の決議も必要である、などのように定めます。
⑨取締役、監査役選解任権付株式
株式会社はある種類株主による種類株主総会において取締役、監査役を選任することができることを内容とする種類株式を発行することができます。この種類株式を取締役、監査役選解任権付株式といいます。この種類株式(全部の取締役、監査役を当該種類株主総会で選任決議する旨のもの)が発行されると、全体の株主総会において取締役、監査役の選任にかかる決議は行われなくなります。
公開会社以外の会社のみ設定可能
公開会社及び指名委員会等設置会社では、取締役、監査役選解任権付株式を発行することができません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。