商業登記関係 属人的株式(株主ごとに異なる取扱いを行う旨の定款の定め)とは
属人的株式
属人的株式とは次の3つの権利に関して、その持ち株数にかかわらず、株主ごとに異なる取扱いができる株式のことをいいます(会社法第109条2項)。
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
例えば、ある会社の株主が
B(所有株式数:40株)
C(所有株式数:55株)
であった場合、
Bの議決権は80個(1株につき2個の議決権)
Cの議決権は55個(1株につき1個の議決権)
という取扱いをすることも可能です。
株式ごとの取扱いに関する会社法第109条の定款の定めは、会社法第107条、108条の種類株式とは異なります(違いについては後述)。
種類株式についてはこちらの記事をご参照ください。
会社法第109条2項
前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第105条第1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
会社法第105条1項
株主は、その有する株式につき次に掲げる権利その他この法律の規定により認められた権利を有する。
一 剰余金の配当を受ける権利
二 残余財産の分配を受ける権利
三 株主総会における議決権
属人的株式の要件と特徴
属人的株式を定めるときの手続きと特徴は次のとおりです。
非公開会社においてのみ設定可能
属人的株式の設定は非公開会社においてのみ認められている制度です(会社法第109条2項)。
非公開会社とは、全ての株式について定款で譲渡制限の定めがある会社のことをいいます。
≫株式会社の株式の譲渡制限の定めとその注意点
例えば、実際には発行はされてはいない(その株主はいない)けれども、1株だけ譲渡制限の定めがついていない株式を発行することができると定款に定められている株式会社は、株主全員が譲渡制限株式しか保有していない状態(譲渡制限の定めがついていない株式を保有する株主が1名もいない状態)でも、非公開会社ではありません。
設定には特殊決議が必要
属人的株式を定款に定める場合は、(定時・臨時)株主総会において定款変更の決議を採る必要がありますが、この場合の決議要件は次のとおりです。
第109条第2項の規定による定款の定めについての定款の変更(当該定款の定めを廃止するものを除く。)を行う株主総会の決議は、総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもって行わなければなりません(会社法第309条4項)。
発行済株式総数100株、株主構成A(97株)、BCD(各1株)という株式会社は、A単独で属人的株式の定めを決議することはできません(総株主の半数以上という要件を満たさない)。
なお、決議に必要な株主数及び議決権の数は、定款により加重することが可能です。
属人的株式は上記決議要件を満たすことにより、全員の同意によらず導入することができますが、株主の権利に大きな変化をもたらしますので、可能であれば株主全員の同意を得ておいた方が無難だと思います。
株主ごとに異なる取扱いを行うことができる事項は3つ
属人的株式の定めとして、株主ごとに異なる取扱いをできる事項は次の3つです(会社法第109条2項、第105条1項)
- 剰余金の配当を受ける権利
- 残余財産の分配を受ける権利
- 株主総会における議決権
剰余金の配当も残余財産の分配もしない旨の定めは無効
株主に剰余金の配当を受ける権利「及び」残余財産の分配を受ける権利に掲げる権利の全部を与えない旨の定款の定めは、その効力を有しないとされています(会社法第105条2項)ので、属人的株式の設定をする際にどちらの権利も全く与えられない株主が存在する場合は、当該定款の定めは無効となってしまいます。
株主が剰余金は全く与えないが残余財産の分配は受けられるという設定は有効となります。
登記事項ではない
属人的株式は定款にその旨の記載が必要ですが、登記事項ではありません。この点は種類株式と大きな違いといえます。
属人的株式を定めたとしても法務局への登記申請は不要ですし、会社の登記簿に属人的株式の定めは反映されないため、第三者に知られることはありません。登記申請が不要であるため、登録免許税も発生しません。
種類株式との違い
属人的株式の定めが登記事項ではないことは前述のとおりです。また、株主総会での決議要件は属人的株式より種類株式の方がやや緩和されています。種類株式の設定は株主総会での特別決議です。
属人的株式は人ごとに株式の特性を定めているため、一番最初の例でAさん(1株につき議決権100個)が持っている株式をDさんに譲渡したとしても、Dさんは譲り受けた株式1株につき議決権100個を行使することはできません。それに比べて種類株式は、定まられた種類株式の内容につき、誰が所持していてもその内容の権利しか取得し得ません。
またCさんにつき、定款において議決権を与えない旨を定めていた場合、Cさんが所有株式を第三者に譲渡すると(譲受人に何の制限もなければ)その株式につき議決権が復活することになります。
属人的株式の限界?
属人的株式は、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会における議決権について株主ごとに異なる定めを設けられるという、各株主にとって非常に影響力をもつ制度です。特殊決議の要件を満たせば、基本的には属人的株式の設定は可能です。しかし一方で、株主平等の原則があります。
東京地裁立川支部の平成25年9月25日判決では、属人的株式の定めによる特定の株主に対する差別的な扱いが、合理的な理由がない、正当性を欠いている、特定の株主の基本的権利を実質的に奪っているようなケースでは、当該定款変更にかかる株主総会決議は株主平等原則の趣旨に違反するものとして無効とされています。
会社法では特殊決議により属人的株式が利用できる、その内容は剰余金の配当・・・と規定はされていますが、その定めが有効か無効か明確な線引きがないため、リスクを承知で属人的株式の設定をするか、リスクを減らすために株主全員の同意を得ておいた方が無難といえるかもしれません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。