商業登記関係 役員(取締役・監査役)選任権付種類株式
取締役、監査役選任にかかる種類株式
種類株式とは、株式会社が発行することのできる、剰余金の配当が優先されている、あるいは議決権を制限されているなどの権利の内容が異なる株式のことをいいます。
株式会社は、「当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること」を内容とする種類株式(ここでは役員選任権付種類株式といいます)を発行することができます(会社法第108条1項9号)。
この種類株式を所有する株主は、その定めによって一定数の役員を選任する権利を確保することができます。
役員選任権付種類株式が利用されるケース
役員選任権付種類株式はベンチャーキャピタルがベンチャー企業に出資をするケース、企業が合弁会社を設立して事業をおこなうケース、創業者が引退はするが会社に影響力を持っておきたいケースなど、少数株主が経営に関与することによって、会社に影響力を持ち、利益を図るために利用されることがあります。
全ての取締役等を選任する
会社法第347条1項及び会社法第329条1項により、取締役の選任権付種類株式を導入するときは、全ての取締役を種類株主総会において選任しなければならないとも読めます。
そのため、取締役会設置会社においては、取締役1名のみを選任することができる取締役選任権付種類株式は消極に解される可能性があります。
念の為、「全ての種類株主が共同して開催する種類株主総会で取締役2名以上選任することができる」等と定款に定めておくのが無難とされています。
なお、上記は監査役についても同様です(会社法第347条2項及び会社法第329条1項)。
役員選任権付種類株式を発行できない会社
次の会社は、役員選任権付種類株式を発行することができません。
- 公開会社
- 指名委員会等設置会社
役員選任権付種類株主が選任した取締役を解任
役員選任権付種類株主が選任した取締役を解任するときは、定款に別段の定めがあるときを除き、当該役員を選任した(解任時の)役員選任権付種類株式の株主の決議が必要となります。当該役員を選任した役員選任権付種類株式の株主がいないときは、株主総会において当該役員を解任をすることができます。
役員選任権付種類株式を発行している会社が、解任による取締役の変更登記を行う際は、解任する取締役を選任した種類株主総会議事録などが必要になります。解任する取締役がどの機関によって選任されたかを確認をするためです。
役員選任権付種類株式が廃止されたとみなされるケース
- 会社法、定款で定めた役員数を欠いたとき
- 公開会社、指名委員会等設置会社になったとき
会社法112条1項により、会社法、定款で定めた役員数を満たす役員数を選任できないときは、役員選任権付種類株式は廃止されたものとみなされます。
取締役会設置会社であるのに取締役を2名しか選任できなかったときや、取締役会非設置会社で定款に取締役を2名以上置くと定められているのにも関わらず取締役1名しか選任できなかったときが該当します。
公開会社及び指名委員会等設置会社は役員選任権付種類株式を発行することができませんので、例えば役員選任権付種類株式を発行している会社が公開会社になったときは、役員選任権付種類株式は廃止されたものとみなされます。
種類株式の導入の手続き
種類株式を導入するときは、株主総会の特別決議などが必要となります。
既存株主の株式の内容を変更
種類株式の発行は、出資を受けて新しく株式を発行するときに行うことができる他、既存の株主が所有している株式の内容を当該種類株式に変更することも可能です。
例えば、普通株式しか発行していない株式会社の株主ABCがいたときに、Aが所有する株式を普通株式から種類株式に変更することができます。
既存株主の株式の内容変更につきましては、こちらの記事をご参照ください。
定款記載例
投資契約で役員選任権を保有する
投資家が役員を選任する権利を保有する方法として、役員選任権付種類株式があることを上述のとおりです。
一方で、一部の投資家には、今すぐ役員を送り込むことまでは求めていないけれども、必要があるときは役員を送り込みたいというニーズもあります。
種類株式によって役員選任権を保有し続けることが投資家の負担になることもあるでしょう。
そのようなケースでは、投資契約書等において、投資家が求めたときは取締役●名を選任することができる旨を盛り込んでおきます。
債権的に会社や主要株主である創業者株主に義務を課すことで、投資家のニーズを満たすというケースは多くあります。
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この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。