商業登記関係 株式会社の基準日について(定時株主総会、配当、株式分割、有償・無償割当て)
株式会社における基準日とは
株式会社は、一定の日を定めて、当該日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主をその権利を行使することができる者と定めることができます(会社法第124条1項)。
この一定の日を「基準日」といい、基準日において株主名簿に記載・記録されている株主を「基準日株主」といいます。
多くの会社では、1人法人を含め、定款にテンプレートとして次のような基準日の定めがあるかと思います。
第●条 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。
第●条 剰余金の配当は、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して行う。
基準日を置くことのメリット
基準日を置くことにより、どの株主に対して会社が対応すればいいのか明確になるというメリットがあります。
例えば、事業年度が毎年4月1日から翌年3月31日までという株式会社X(上記基準日、剰余金の配当に関する基準日の定めが定款にある)があったときに、株式会社Xが6月に開催する定時株主総会については、同年3月31日時点の株主に対して招集通知を送れば済みます。
株主の変動が生じにくい同族会社や1人会社ではこのメリットはほぼありませんが、株主の変動が生じやすい公開会社や生じる頻度の高い上場会社においては大きなメリットとなるでしょう。
基準日の有効期間
基準日株主は、基準日から3ヶ月以内に定められた権利を行使することができますので、3ヶ月を経過した後は基準日の効力が及びません。
つまり、株式会社Xが諸般の事情により7月20日にみなし定時株主総会(書面決議)を行うときは、基準日から3ヶ月を経過してしまっているため、3月31日時点の株主ではなく、7月20日時点の株主全員からの同意(会社法第319条1項、同法320条)を得ることになります。
剰余金の配当についても、株式会社Xが8月に配当するときは、3月31日時点の株主ではなく、配当の効力発生日時点の株主に配当することになるでしょう。
基準日を新たに設定したい
基準日を新たに設定するときは、次の2つの方法があります。
- 公告をする
- 定款に定める
公告をするときは、当該基準日の二週間前までに、定款で定めた公告方法で、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告します(会社法第124条3項)。
定款で基準日を定めるときは、株主総会の特別決議によって、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利を定款に追加します。
基準日(公告)が使われるパターン
基準日公告が行われるケースは、主に上場会社における株主総会の議決権に関する事項についてでしょうか。
当社は、令和●年●月●日を基準日と定め、同日午後●●時現在の株主名簿上の株主をもって、令和●年●月●日開催予定の株主総会における議決権を行使できる株主と定めましたので公告します。
令和●年●月●日
東京都港区東新橋一丁目7番2号
株式会社汐留太郎
代表取締役 汐留太郎
上記の他に、剰余金の配当に関する事項、株式・新株予約権者の有償割り当てに関する事項、株式・新株予約権者の無償割り当てに関する事項、株式分割に関する事項について基準日公告が行われることがあります。
基準日後に株主に変更が生じた場合
3月末決算の株式会社Xが、定時株主総会の開催までの間に株主に変動が生じた場合はどうでしょうか。
例えば、4月中に募集株式の発行をした、4月1日付で存続会社を株式会社Xとする吸収合併を行った、4月中に株式譲渡を行ったようなケースです。
基準日株主が行使することができる権利が株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができます(会社法第124条3項)。
ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができません。
また、上記は議決権に限られており、配当を受ける権利は対象外となっています。基準日後に株式を取得した株主にも配当をするのであれば、配当の効力発生日を、基準日から3ヶ月経過した以降にすることが考えられます。
募集株式の発行
事業年度末=基準日=3月31日の株式会社Xが同年4月15日に募集株式の発行を行い、新たにAが株主に加わった場合、6月に開催される定時株主総会においてAは議決権を行使することはできるでしょうか。
Aは基準日株主ではありませんので、原則として、Aは定時株主総会で議決権を行使することができません。
一方で、株式会社XはAが定時株主総会において議決権を行使することができると認めることも可能です。ただし、他の株主の権利を不当に害さないよう配慮は必要でしょう。
吸収合併
4月1日付で株式会社Xが存続会社となる吸収合併を行い、当該吸収合併によって株式会社Xの株主にとしてBが新たに追加されたようなケースはどうでしょうか。
この場合も、結論は上記「募集株式の発行」と同様でしょう。
株式の譲渡
基準日後、定時株主総会前に株式が譲渡されるケースがあります。特に、M&Aにおいて株主が入れ替わる場合、株式の譲渡人は対価をもらってイグジットしているため、定時株主総会で議決権を行使したくない、あるいは株式の譲受人は自分が当然に議決権を行使できると考えています。
株式会社Xの唯一の株主Sが、4月にその保有する株式の全部を株主Tに譲渡した場合、Tを定時株主総会において権利を行使する者と定めると、明確に基準日株主であるSの権利を害するといえそうです。
そのため、株式の全部譲渡を控えている場合は、定款から基準日の定めを削除しておくことが考えられます。
また、基準日株主の権利を害しない範囲で譲受人を定時株主総会で議決権を行使することができる者と定めることができることから、株式譲渡契約において当該権利につき譲渡人・会社の同意を得ておくことで、リスクを減らすことができるかもしれません。
基準日に関する会社法の条文
(基準日)
会社法第124条
株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。
2 基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から3箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。
3 株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。
4 基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。
5 第1項から第3項までの規定は、第149条第1項に規定する登録株式質権者について準用する。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。