商業登記関係 種類株式を何種類か発行している株式会社が、その中の1種類を無議決権から議決権ありに変更する
無議決権株式
株式会社が複数の種類の株式(普通株式、A種優先株式、B種優先株式、C種優先株式、D種優先株式)を発行しているときに、C種優先株式が無議決権株式であったとします。
無議決権株式とは、会社法第108条1項3号に基づき株主総会における議決権を付与していない株式のことを指します。
C種優先株主が追加出資(E種優先株式)を行う際に、あるいはC種優先株主が株式譲渡をする際等にC種優先株式に対して議決権付与を求め、他の株主もそれを承諾している場合どのような手続きが必要となるでしょうか。
なお、株主間契約や投資契約で定められた既存株主の承諾その他手続きは全て済んでいる前提で、以下は会社法上必要な手続きを記載しています。
種類株式の内容変更
種類株式の内容を変更するときに、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議が求められます(会社法第322条1項1号)。
C種優先株式につき無議決権→議決権ありに変更するのであれば、C種優先株式以外の種類株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるときに該当しますので、それらに関する種類株主総会の特別決議が必要です。
また、定款変更(C種優先株式の内容変更)は株主総会の特別決議によって行いますので(会社法第309条1項)、各種類株主総会に加えて株主総会の開催又はみなし決議(会社法第319条1項)の準備もします。
種類株式の内容変更の手続き
種類株式の内容を変更する手続きの一例は次のとおりです。
- 取締役会の決議
- 株主総会の決議
- 種類株主総会の決議
- 登記申請
1.取締役会の決議
取締役は、株主総会を招集する場合には、株主総会の日時及び場所等の特定の事項を定めなければなりませんので(会社法第298条1項)、株主総会を開催するまでに当該事項を取締役会の決議(取締役の決定)で定めます。
株主総会が開催型ではなくみなし決議(会社法第319条1項)の場合、株主への提案事項を取締役会の決議(取締役の決定)で定めておいた方が良いかどうかは両説あるかとは思いますが、両説ある場合は可能であれば取締役会の決議(取締役の決定)で定めておいた方が無難かもしれません。
2.株主総会の決議
株主総会において定款の一部変更を特別決議によって行います(会社法第309条2項)。
定款の変更内容は、C種優先株式の内容次第ではありますが、「C種優先株式は株主総会において議決権を有さない。」のような定め方であればそれを「C種優先株式は株主総会において議決権を有する。」と変更する、あるいは、議決権に関して何も定款に記載がなければ当然に議決権を有することになりますので、当該部分を削除することでも結果は同じです(削除する場合、以降の条数繰り上げに注意)。
C種優先株式以外の種類株式の議決権に関する記載内容に合わせるのが分かりやすいかと思います。
C種優先株式の名称に無議決権である旨が付いている場合は、法律上必須ではありませんが名称も変えておいた方がいいでしょう。
なお、C種優先株式につき議決権ありにするときでも、会社法第199条4項、同法第238条4項、同法第322条2項、同法795条4項(会社法第199条4項の定めがあれば自動的にカバー)に基づくC種優先種類株主総会を不要とする定款の規定がある場合は、当該規定はそのままの方(削除しない方)が今後の運用がスムーズです。
3.種類株主総会の決議
株主総会で決議した同様の内容の定款変更を、各種類株主総会でも決議します。この決議要件は特別決議です(会社法第324条2項)。
C種優先株式以外に無議決権の種類株式がある場合、当該種類株主総会の決議も必要となるので注意が必要です。また、普通株式に係る種類株主総会の決議も忘れやすいので同様です。
C種優先株式に係る種類株主総会につき、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときに該当しないと思われますが、他の種類株主総会の決議をとるタイミングで一緒に決議をとっていることが多いかもしれません。
登記申請
定款変更の効力発生日から2週間以内にその旨の登記申請を行います(会社法第915条1項)。
この登記の添付書類の一例は次のとおりであり、登録免許税は3万円です。
- 株主総会議事録
- 種類株主総会議事録
- 株主リスト
C種優先株式(無議決権)を保有し続ける株主がいる場合
無議決権であるC種優先株式の株主が複数名(XYZ)いるときに、株主Zだけに議決権を付与したい場合はどうでしょうか。
C種優先株式(無議決権)はそのままとし、C種優先株式と同内容で議決権は有する内容のC2種優先株式(名称は自由)を新たに設定し、株主Zの保有する株式の種類をC2種優先株式に変更します。
単にC2種優先株式を設けるだけでなく、C種優先株式につき他の種類株式との間で剰余金の配当や残余財産の分配で優劣がある場合は、他の種類株式の内容も変更する必要があるでしょう。
それを忘れてしまうと、他の種類株主又は株主Zに不利益が生じてしまう可能性があります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。