商業登記関係 (代表取締役2名)事前に印鑑届出を行うことで代表取締役社長交代の登記添付書類を少なくすることができるか
代表取締役が複数いる場合の代表取締役の交代
新しい事業年度が始まるタイミングで代表取締役が交代する株式会社(特に完全親会社がいる株式会社)も少なくありません。
毎年の事業年度が4月1日から翌年3月31日までの株式会社において、既存の代表取締役Aが3月31日に取締役を辞任し、新しく既存の取締役Cが4月1日に代表取締役に就任するようなケースです。
上記のように代表取締役が2名(社長・副社長等)がいて、代表取締役社長Aが3月31日に取締役を辞任し、Bが代表取締役社長となり、取締役Cが代表取締役副社長となった場合、このときの役員変更登記(以下「本件登記」といいます。)の添付書類はどうなるでしょうか。
なお、本ページは代表取締役の選定を取締役会の決議で行うことを前提としています。
取締役会設置会社において、定款の定めにより株主総会の決議で代表取締役の予選を行う方法はこちらの記事をご確認ください。
≫3月31日をもって代表取締役が辞任して、4月1日付けで新しい代表取締役が就任するときの手続き
役員変更の手続きと登記の必要書類
上記のような役員の変更を行うには、次のような手続きが必要です。
- Aが取締役を辞任
- 株主総会の決議でDを取締役に選任(+就任承諾)
- 取締役会の決議でCを代表取締役に選定(+就任承諾)
- 登記申請
上記1と上記2は順序が入れ替わる会社もあるかと思います。必要に応じて上記3で役付取締役(社長等)を選定します。
①一般的な登記の添付書類
本件登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- Aの辞任届
- CEの就任承諾書
- BCDEの印鑑証明書
登記の添付書類ではありませんが、Bの印鑑届書も同時に提出します。
このとき、取締役会議事録にはBCDEが個人実印を押印、辞任届には会社実印を押印(又はAが個人実印で押印しAの個人印鑑証明書を用意)、Cの就任承諾書にはCが個人実印を押印、Bの印鑑証明書は発行後3ヶ月以内のものを用意します(印鑑届書に援用するため)。
②3月中にBも会社実印の登録をしておくとどうなるか
会社実印の登録者は1名に限られませんので、代表取締役が2名いる株式会社においては、代表取締役2名とも会社実印の登録をすることもできます(それぞれ別の印鑑を登録)。
Bが3月中に会社実印を登録した場合(会社実印登録者=AB)の本件登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- Aの辞任届
- CEの就任承諾書
- Cの印鑑証明書
上記①の内容に比べ、②はBDEの印鑑証明書(+取締役会議事録への個人実印の押印)が必須ではなくなった点で、登記の準備に係る負担が軽減しています。
なお、代表取締役Bが登録する会社実印につきAが使用していた会社実印へ改印するときは、印鑑(改印)届書の提出が別途必要となり、これにはBの印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)が必要となります。
③3月中にBのみを会社実印の登録者としておくとどうなるか
会社実印の登録者は1名にしておきたいという意向があった場合、3月中にAの実印登録を廃止してBが実印登録をすることも可能です。
実印登録者をAからBに変更するには、Aの印鑑廃止届とBの印鑑届書(+Bの印鑑証明書(発行後3ヶ月以内))を管轄法務局に提出する方法によって行います。
Bが3月中に会社実印を登録した場合の本件登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- Aの辞任届
- CEの就任承諾書
- Cの印鑑証明書
上記②において4月以降にBの会社実印を(Aが届け出ていた印鑑に)変更することを③では先に行っているため、Bの改印手続きを行おうと思っていた場合も、当該手続きが不要となっています。
なお、上記はあくまで登記の仕組みがそうなっているという話ですので、そうするべき、あるいはそうするのが望ましいという話ではありません。
数日とはいえ会社実印が2個存在している状況が望ましくない、あるいはAが退任までに印鑑の廃止届をしたくないケースは、上記②③の方法を採用することは難しいため上記①の方法を採用することになるでしょう。
また、株主総会の決議によっても代表取締役を選定することができるように定款を変更することが可能であれば、そちらを採用した方が手続きはシンプルになりますので、会社の事情によって方法を選択されるのがよろしいかと思います。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。