商業登記関係 【株式会社】株主総会のみなし決議につき特定の日にその効力を生じさせる
株主総会におけるみなし決議
株式会社が株主総会を開催するには、取締役会が株主総会の日時及び場所等を決議し(会社法第298条1項、同条4項)、株主に対してその通知を発して行います(会社法第299条1項)。
上記のように実際に株主総会を開催して決議を得る以外にも、会社法は、会議体による方法ではない「みなし決議」という方法も用意しています。
株主総会における「みなし決議」とは、取締役又は株主が株主総会の目的である事項を提案し、当該提案につき議決権を行使することができる株主(以下、単に「株主」といいます)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をすることで、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなすという決議方法です(会社法第319条1項)。
≫みなし株主総会(書面決議・みなし決議)-会社法第319条1項
みなし決議の成立日
実際に開催する株主総会の決議日は当該株主総会が開催された日となりますが、みなし決議における株主総会の決議日は、株主全員から書面又は電磁的記録による同意の意思表示が株式会社へ到達した日です。
株式会社Xにおいて株主ABCの3名がいるときに、株式会社Xに対しABから書面による同意の意思表示が1月31日に届き、Cから書面による同意の意思表示が2月2日に届いた場合は、当該株主総会の決議が成立した日は2月3日となります。
株式会社Xがみなし決議による方法を採用するケースにおいて、特定の日(2月5日)を株主総会の決議が成立した日としたい場合、次のような方法が考えられます。
(株主側)同意する日を調整する
株式会社Xに株主全員から同意の意思表示が届いた日=株主総会の決議が成立した日となるため、(最後の)株主の同意が届く日を2月5日とすることが考えられます。
株主のうち1名が代表取締役であるようなケースでは、他の株主からは同意書を2月5日以前にもらっておき、代表取締役である株主の同意日を2月5日に行うことでスムーズに実現することができます。
貴社の株主である私は、貴社提案の株主総会の目的である事項について、会社法第319条第1項の規定に基づき、当該事項について同意いたします。
株主:A
当然ながら、株主のうち1名でも2月5日までに同意の意思表示が間に合わない者がいるときは、2月5日に株主総会の決議を成立させることができないため、スケジュール管理・調整が必要です(以下いずれの方法でも同様です)。
(株主側)同意の効力発生日を指定する
あらかじめ株主の同意の効力発生日を株主が指定することで、特定の日を同意日=株主総会の決議の効力発生日とすることができます。
みなし決議の効力は、同意の書面が届いた日ではなく、同意の意思表示をしたとき(同意の効力が生じたとき)に生じるためです。
貴社の株主である私は、貴社提案の株主総会の目的である事項について、会社法第319条第1項の規定に基づき、当該事項について同意いたします。なお、本同意の効力は2025年2月5日に生じるものとします。
株主:A
(会社側)みなし決議の成立日をあらかじめ指定する
株式会社Xが株主へ株主総会の目的である事項を提案するときに、当該提案の内容として決議の成立日も指定しておくケースも見受けられるところです。
なお、本提案に対して議決権を行使することができるすべての株主の皆様からご同意を得られた場合には、2025年2月5日に別紙決議事項を可決する旨の臨時株主総会の決議があったものとして取り扱わせていただき・・・。
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2025年2月3日
貴社の株主である私は、貴社提案の株主総会の目的である事項について、会社法第319条第1項の規定に基づき、当該事項について同意いたします。
株主:A
(番外編)決議内容として効力発生日を設ける
株主総会のみなし決議が成立した日はいつでも良いが、決議内容の効力発生日は特定の日としたいケースも少なくありません。
一例として、商号変更・事業目的変更に係る定款変更の議案や、取締役・監査役等の役員選任の議案です。
この場合は、議案の内容において効力発生日を指定する方法が考えられます(当然ながら、効力発生日までにみなし決議を成立させる必要があります。)
当社の定款第1条を2025年3月1日付で次のとおり変更すること。
(商号)第1条 当会社は、株式会社●●●と称する。
第2号議案 取締役1名選任の件
次の者を2025年4月1日付で当社の取締役として選任すること。
取締役 田中一郎
第3号議案 取締役報酬改定の件
(略)
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。