商業登記関係 取締役会の決議要件と取締役の過半数の一致
取締役会の決議は取締役の過半数で行う
取締役会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数をもって行います(会社法第369条1項)。
定款に定めることにより、出席する取締役の数及び決議に要する取締役の割合を加重することができます。
(取締役会の決議)
会社法第369条1項取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
過半数とは
過半数とは、4名のうちの3名であり、10名のうちの6名です。
半数を超えていることが必要ですので、4名のうちの2名では足りず、10名のうちの5名でも足りません。
賛成と反対が同数のとき
取締役4名の取締役会のある株式会社において、取締役会に取締役全員が出席し、2名が賛成して2名が反対したときは上記のとおり過半数の要件を満たしていないため、当該議案を可決することはできません。
なお、賛成と反対が同数のときは議長が決定することができる旨の定款の定めは無効とされています。
議長が、一定の条件において2票持つことになってしまい、加えて、過半数要件を加重することはできますが、軽減することは会社法第369条1項は認めていないためです。
賛成者数は同じでも出席者数によって結果が変わる
取締役4名の取締役会のある株式会社において、取締役会に4名全員が出席したときは2名が賛成しても当該議案は可決されませんが、取締役会に3名しか出席しなかったときは、2名の賛成で当該議案が可決されます。
取締役会への出席義務
取締役会は主に取締役と監査役によって構成されます。取締役と監査役の取締役会への出席義務は次のとおりです。
取締役の出席義務
会社法上には明確な規定はありませんが、取締役には取締役会への出席義務があるとされています。
監査役の出席義務
監査役にも取締役会への出席義務があります(会社法第383条1項)。
(取締役会への出席義務等)
会社法第383条1項監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。(以降省略)
しかし、定款で監査の権限を会計に限定されている監査役については、取締役会への出席義務はありません(会社法第389条7項)。
出席役員と取締役会議事録への押印義務
書面で作成された取締役会議事録には、出席した取締役と監査役が署名または記名押印しなければなりません(会社法第369条3項)。
(取締役会の決議)
会社法第369条3項取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
これは、取締役会への出席義務のない監査の権限を会計に限定されている監査役についても該当します。
当該監査役が任意で取締役会へ出席したときは、当該監査役にも署名または記名押印の義務が生じます。
取締役会の書面決議
一定の条件を満たしたときは、実際に取締役会を開催せずに、書面等による同意だけで決議をすることができます。
取締役会の書面決議については、こちらの記事をご参照ください。
特別の利害関係を有する取締役と取締役会の決議
取締役会に決議につき特別の利害関係を有する取締役は議決に参加することができません(会社法第369条2項)。
(取締役会の決議)
会社法第369条2項前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。
これは、特別の利害関係を有する取締役を定足数に含めないことを意味します。
特別の利害関係とは
取締役が特別の利害関係を有するような決議とは、当該取締役が当事者となる株式(譲渡制限付)の譲渡承認決議や、当該取締役が所有している不動産の会社への売却にかかる承認決議(利益相反)が挙げられます。
取締役会非設置会社の取締役の決定
取締役会非設置会社においては、取締役が2名以上いるときは、株式会社の業務は取締役の過半数をもって決定します(会社法第348条2項)。
(業務の執行)
会社法第348条2項取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
取締役の過半数の一致
取締役の過半数の一致の取り方について、必ずしも取締役会とは異なり一堂に会する必要はありません。
取締役会非設置会社の取締役の過半数の一致には、定足数という考えがないため、「賛成者数は同じでも出席者数によって結果が変わる」ということは起こり得ません。
取締役の過半数の一致と特別の利害関係を有する取締役
取締役会非設置会社における取締役の決定には、取締役会設置会社の取締役会の決議と異なり、特別の利害関係を有する取締役が決定に参加することができない旨の会社法の規定はありません。
そのため、特別の利害関係を有する取締役も決定に参加できるとされています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。