商業登記関係 取締役会を置く株式会社の役員が、書面決議だけで全員重任するときの手続き
役員の任期と再任
取締役及び監査役(ここでは、合わせて「役員」といいます)には任期があり、任期が満了すると退任します。
役員の任期が満了するときは、その終了をもって任期が満了することになる定時株主総会において役員を再任します。
事業年度末を3月末としている株式会社においては、5月または6月に定時株主総会が開催されることが一般的です。
今年は特に、株主総会あるいは取締役会を実開催型ではなく、書面決議で行う株式会社は多いのではないでしょうか。
再任手続き
役員の任期が満了するときに、同じ人が役員を続ける場合は、その人を改めて株主総会の決議によって選任しなければなりません。
何もしなくても自動的にその人の任期が延びたり、再任の効力が発生することはありません。
実開催型の株主総会や取締役会で役員を選任することができるのはもちろんのこと、株主総会の書面決議で役員を選任することも、取締役会の書面決議で代表取締役を選定することも可能です。
実開催型の株主総会あるいは取締役会で役員を再任する場合は、こちらの記事をご確認ください。
書面決議で役員を選任する手続き
取締役ABC、代表取締役A、監査役Dがいる株式会社Xが、書面決議で全員を再任するときの流れは次のとおりです。
※メール等の電磁的記録による提案及び同意でも決議可能ですが、ここでは書面決議について取り上げています。
役員報酬の変更や剰余金の配当、その他決議事項があるときは、当該議案を盛り込みます。
- 取締役全員へ提案書の発送(決算承認・株主総会を書面決議・報告で行うことの決定)
- 取締役全員から同意書の回収
- 株主全員へ提案書の発送
- 株主全員から同意書の回収
- 取締役全員へ提案書の発送(代表取締役の選定)
- 取締役全員から同意書の回収
- 登記申請
取締役会の書面決議
取締役会において計算書類を承認し、定時株主総会を書面決議・書面報告で行うこと及びその内容について決議します。
多くのケースにおいては代表取締役が、取締役全員に対して、取締役会の決議の目的である事項を記載した書面(提案書)及び返送してもらう同意書を発送します。
業務監査権限のある監査役は、当該提案に異議を述べることができ、監査役が異議を述べたときは取締役会の決議が成立しません(会社法第370条)。
そのため多くの会社では、法的には必須ではありませんが、監査役から「異議がない旨の同意書」のようなものを得ています。
ところで、役員全員が再任する場合は、代表取締役を予選することが可能です。
この取締役会で代表取締役を予選しておくと、株主総会の決議後に、代表取締役を選定するための取締役会の決議を省略することができます。
株主総会の書面決議・報告
株主全員に対して、「株主総会に報告すべき事項」「株主総会の目的である事項」を記載した提案書及び返送してもらう同意書を発送します。
「株主総会に報告すべき事項」「株主総会の目的である事項」の一例は、次のとおりです。必要に応じて、決議事項を追加してください。
報告事項 | 事業報告の件 |
決議事項 | 計算書類承認の件 取締役選任の件 監査役選任の件 (剰余金配当の件) (定款一部変更の件) |
取締役会の書面決議
代表取締役を選定するため、計算書類をしたときと同様に、取締役会の書面決議を行います。
この取締役会議事録は、議事録作成者を代表取締役Aとして、会社実印(Aの届出印)を押しておくと、取締役全員の個人実印+印鑑証明書を準備する手間が省けますのでお勧めです。
役員重任の登記申請をする
役員の再任日(重任日)から2週間以内に法務局へ役員重任の登記申請をします。
その登記申請の添付書類の一例は、次のとおりです。
議事録作成者たる代表取締役の届出印 | |
代表取締役の届出印 | |
議事録作成者たる代表取締役の届出印 | |
原本証明文+議事録作成者たる代表取締役の届出印 | |
役員の認印 |
取締役会の書面決議を行う条件
株主総会の書面決議はどの株式会社でも行うことは可能ですが、取締役会の書面決議を行うには定款にその旨の記載が必要です。
≫取締役会の決議を書面又は電磁的記録で行う準備はできていますか?
取締役会の書面決議を行うことができる旨の定款の規定がない会社は、これを機に定款に追加しておいてはいかがでしょうか。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。