相続関係 未成年の子の相続放棄と利益相反
未成年の子と相続放棄
人が亡くなると、その亡くなった人(被相続人といいます)の法定相続人が被相続人の財産に関する権利義務を承継します。
財産に関する「権利義務」とあるとおり、法定相続人は被相続人の不動産や預貯金などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続することになります。
被相続人の財産に関する権利義務を承継したくない相続人には、相続放棄をするという選択肢があります。
相続放棄をした相続人は最初から相続人ではなかったことになるため(民法第939条)、相続人は相続放棄をすることにより、被相続人の一切の財産や負債を相続しないことが可能です。
(相続の放棄の効力)
民法第939条相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
未成年の子も借金を相続し得る
相続人には年齢制限はなく、1歳の人でも15歳の人でも90歳の人でも相続人となり得ます。
10歳の子はお金が払えないから借金を相続しても返済義務はない、ということにはならず、年齢に限らず被相続人に借金があればその借金を相続することになります。
未成年の子の相続放棄手続きは法定代理人が行う
未成年者は単独で法律行為を行うことができません。
そして、相続放棄は法律行為に該当します。
そのため、未成年の子が相続放棄をするときは、法定代理人(多くのケースでは親)が子に代わり相続放棄の手続きをすることになります。
もし未成年の子と法定代理人が利益相反の関係に該当するときは、法定代理人は未成年の子の代わりに相続放棄の手続きを行うことができません。
親権者が共同相続人ではないケース
親権者が未成年の子と共同相続人ではないケースでは、利益相反を心配する必要はありません。
親権者が未成年の子と共同相続人ではないケースとは、例えば離婚した夫が亡くなったときに、その夫との子(嫡出子あるいは非嫡出子だが認知されている)が相続人となるような場合です。
離婚した妻は元夫の相続人とはなりませんが、子は相続人となります。
子が未成年で、当該子が相続放棄をするときは、親権者が代わりにその手続きを行うことができます。
親権者が共同相続人であるケース
親権者が未成年の子と共同相続人であるケースでは、利益相反に該当するのかどうか確認をした方がいいでしょう。
親権者が未成年の子と共同相続人であるケースとは、例えば婚姻中の夫が亡くなり、妻と子が夫の相続人になるような場合です。
親権者も一緒に相続放棄をする
親権者が未成年の子と共同相続人であるケースにおいて、親権者も未成年の子と一緒に相続放棄をするのであれば利益相反に該当しません。
親権者は自分の相続放棄の手続きも、未成年の子の相続放棄の手続きも行うことができます。
親権者は相続放棄をしない
親権者が未成年の子と共同相続人であるケースにおいて、親権者は相続放棄をせずに未成年の子のみ相続放棄をするのであれば、親権者は子の代わりに子の相続放棄の手続きをすることはできません。
未成年の子の相続放棄により、自分の相続分を増やすことができてしまう可能性があり、利益相反の関係に該当するためです。
この場合、未成年の子が相続放棄をするためには家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、特別代理人が未成年の子に代わり相続放棄の手続きをすることになります。
未成年の子が複数いるケース
未成年の子が複数いる場合、その一部の子のみ相続放棄をするときは、当該子に対して特別代理人の選任が必要となります。
なお、親も相続放棄をするなどして親と子が利益相反関係にないときに、未成年の子が複数いる場合は、子の全員が相続放棄をするのであれば、親が子全員の相続放棄の手続きを代理して行うことができます。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。