商業登記関係 1日で募集株式の発行・増資をする方法(総数引受契約)
1日で募集株式の発行(増資)をする
募集株式の発行は、取締役会や株主総会の決議、募集事項の通知や引受けの申込み、割当ての通知、等々多くの手続きが必要とされています。
多くの手続きが必要とされているため何日もかかりそうですが、これらは最短1日で終えることができます。
ここでは1日で募集株式の発行を終えることのできる手続きについて紹介しています。
※募集事項の内容や、株式の引受人が決まっていることが前提です。
募集株式の発行は必ずしも増資でない
募集株式の発行=増資とは限りません。
自己株式を交付するときも募集株式の発行による手続きを経る必要があり(会社法第199条1項)、募集株式の発行の際に自己株式のみを交付するときは、資本金の額が変動しません。
そのため、募集株式の発行手続きはするけれども、登記事項(資本金、発行済株式数)に変更が生じないこともあり得ます。
自己株式を第三者へ譲渡?
よくある勘違いとして、自己株式を特定の第三者に対して譲渡契約を締結する等して、譲渡できるというものがあります。
しかし、自己株式を交付するときは募集株式の発行手続きにより行わなければなりません(会社法第199条1項)。
募集株式の発行を1日で終える手続き
募集株式の発行を1日で終えるには、一例として次のように手続きを進めていきます。
(取締役会非設置会社、非公開会社)
- 取締役の決定
- 株主総会の決議
- 総数引受契約の締結
- 出資の履行
- 登記申請
1. 取締役の決定
業務執行の一環として取締役の過半数の決定により、募集事項の決定を行い、それに関して株主総会の決議を得るために株主総会の招集又は株主へ提案(会社法第319条1項)することを決定します。
2. 株主総会の決議
株主総会の特別決議によって、募集事項(会社法第199条1項)と総数引受契約をすることを承認します(会社法第205条2項)。
株主総会を開催するときは、定められた期限までに招集通知を発送しなければなりません(書面・電子投票制度を採用する場合を除き、定款に定めのない場合は株主総会の1週間前まで)。
一方で、株主の全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができ(会社法第300条)、また、株主総会の目的である事項について株主全員が同意をしたときは株主総会の決議があったものとみなすことができますので(会社法第319条1項)、それらの方法によれば1日で株主総会の決議を終わらせることができます。
3. 総数引受契約の締結
募集株式を引き受けようとする者と発行会社で総数引受契約を締結します。
総数引受契約の総数引受とは、募集事項で定められた募集株式の数の総数を引き受けることをいい、引受人は1名に限られず複数名いても構いません。
しかし、一つの募集株式の発行において引受人が複数となるときは、総数引受契約が同一の機会にされた一体的なものと評価される必要があります。
それが示されているのであれば、一枚の契約書ではなく、引受人毎に別々の契約書でも問題ありません。
引受人同士がお互いの氏名(名称)・住所を知られたくないのであれば、総数引受契約の方法ではなく申込み+割当ての方法で行いますが、この申込み+割当ての方法では全てを1日で終わらせることはできず、最短でも2日を要します。
4. 出資の履行
払込日を定めたときはその日までに、払込期間を定めたときはその期間の末日までに出資を履行しなければなりません。
なお、金銭出資の場合は、期日までに発行会社の金融機関の口座に入金されていない(入金履歴がない)と登記申請ができませんので、期日の15時頃までに行うことが無難ではありますが、それ以降でも入金の履歴がつく銀行も増えています。
1日で手続きを終えるのであれば、取締役の決定日=株主総会開催日=総数引受契約書の締結日=払込日=増資の効力発生日となります。
5. 登記申請
自己株式の処分ではなく、株式を新たに発行したときは、資本金の額(一部を資本準備金に計上したときは資本準備金も)と発行済株式数の数が増加します。
そして、その効力が発生した時から2週間以内に、変更登記を申請することが義務付けられています(会社法第915条1項)。
上記の例(取締役会非設置会社、非公開会社)では、登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 総数引受契約書
- 払込証明書
- 資本金計上証明書
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。