商業登記関係 株式会社の設立時に、特定の株主からの取得に関する規定を定款に定める
自己株式の取得と売主追加請求権
株式会社は自社が発行している株式を保有することができ、発行会社が保有している株式のことを自己株式といいます。
発行会社が自己株式を保有するケースについては、こちらの記事をご参照ください。
特定の株主からの取得
株式の発行会社が特定の株主からその株式を取得することもできますが、当該特定の株主以外の株主は「売主追加請求権」を有していますので、当該特定の株主以外の株主も、この機会に自分の株式を取得してくれと主張することができます(会社法第160条3項)。
この「売主追加請求権」があるため、株主が複数いる株式会社においては、特定の株主からだけ株式を取得したいというニーズがあったときに、それを実現することが難しいというようなケースがあります。
売主追加請求権の排除
株式会社は定款に定めることにより、「売主追加請求権」を廃除することができます(会社法第164条1項)。
この定款の定めがあると、他の株主の「売主追加請求権」の行使を気にすることなく、特定の株主からの自己株式の取得に臨むことが可能となります。
なお、自己株式の取得に関する決議が承認されるかどうかは別の話です。
設立後に追加するには株主全員の同意が必要
株式会社の設立後、定款を変更して売主追加請求権を排除する旨を追加するときは、商号変更等の定款変更に係る決議要件である特別決議では足りず、株主全員の同意が必要です(会社法第164条2項)。
株主が複数いるときは、株主全員の同意を得ることは大変だったりします。
(特に、少数株主が複数いる場合)
定款の記載例
売主追加請求権の排除に関する定款の定めの記載例は次のとおりです。
第○○条 当会社は、株主総会の決議に基づき、特定の株主との合意によりその有する株式の全部又は一部を取得することができる。
2 前項の場合、当該特定の株主以外の株主は、自己を売主に追加することを請求することができない。
どのようなケースで役に立つ?
「売主追加請求権」を排除しておくと、
- 株主A 160株
- 株主B 10株
- 株主C 10株
- 株主D 10株
- 株主E 10株
という株主構成で、株主Bが何かの事情で株式を会社に買い取ってもらいたいとき、または会社が株主Bから株式を取得したいときに役立ちます(株主Aが賛成に回る場合)。
特定の株主は議決権を行使することができない
特定の株主から自己株式を取得するときに、定款に定めることにより当該特定の株主以外の株主の「売主追加請求権」を排除することはできますが、当該特定の株主は、自己株式の取得を決議する株主総会において議決権を行使することはできません(会社法第160条4項)。
但し、当該特定の株主以外の株主全員が、当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、当該特定の株主が議決権を行使することが可能です(会社法第160条4項但書)。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。