商業登記関係 創業時に株式を50%:50%で保有するリスクを考える
株式会社の設立と株式の保有割合
株式会社を設立するときは、発起人が1円以上出資をしなければならず、出資をした発起人は株式会社設立後の株主となります(発起設立の場合)。
発起人が1名であれば、その人が発行されている株式の100%を保有することになりますので話は単純なものとなり、その人が全て株主総会の議案を決議することができます。
発起人が複数いる場合、通常は出資比率と株式の保有割合を同じにしますが、出資比率と株式の保有割合を異なるものとすることも可能です(出資比率と株式の保有割合を別にする場合の税金は、税理士にご確認ください)。
出資した金額 | ||
割り当てる株式(保有株式) |
株式会社においては、1株1議決権が原則ですので、株主の構成やその保有割合は設立後の株式会社に大きな影響をもたらします。
株主総会の決議要件を確認する
株主総会でよく使われるのは普通決議と特別決議です。
株主総会の決議要件については、こちらの記事をご参照ください。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
なお、普通決議は定足数を排除することも可能ですが、出席した株主の過半数の議決権の賛成が必要であるという要件を緩和することはできません。
また、特別決議の定足数は3分の1まで緩和することができますが、出席した株主の3分の2以上の議決権の賛成が必要であるという要件を緩和することはできません。
創業者2名、50%ずつ株式を保有する
2名で株式会社を設立するときに、よくあるケースは半分ずつ出資しようというものです。
資本金を100万円とする場合、AさんとBさんが50万円ずつ出資をして、50株ずつ(1株1万円とする)保有することにします。
一見普通のことのように見え、これが間違いということではありませんが、どのようなリスクが潜んでいるのでしょうか。
一緒にビジネスをしなくなる
連絡が取れなくなってしまったり、意見が対立するようになってしまいパートナーと一緒にビジネスができなくなるようになってしまうこともあるかもしれません。
そのようなケースに陥ってしまったときに、50%ずつ株式を保有していると、
- 株主総会の決議をすることができない。
- 連絡の取れない取締役を解任することができない。
- 取締役の業務決定を行うことができない。
ということが考えられます。
これではビジネスを継続していくことが非常に困難となってしまいます。
普通決議、特別決議の要件を緩和する
株主総会の普通決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行いますが(会社法第309条1項)、定款に定めることにより定足数を排除することが可能です。
また、株主総会の特別決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行いますが、定款に定めることにより定足数を3分の1まで緩和することができます。
過半数とは、半数を超える数のことをいいますので、50%の議決権では過半数の要件を満たしません。
そこで、定款で定足数を緩和することにより、一方の株主と連絡が取れなくなった場合でも株主総会の決議をすることができるようになります。
但し、意見が対立してしまっている場合は、相手に反対されると株主総会においてその議案を可決することはできません。
51株と49株を保有する
Aさんが51株、Bさんが49株を保有することにより、Aさんだけで普通決議の要件を満たすことができるようになります。
また、Bさんと連絡を取れなくなってしまっても(定款で決議要件を緩和しなくても)Aさんだけで株主総会の決議を成立させることができます。
取締役の解任に関する株主総会の決議要件を緩和する
取締役の解任をするには株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行います(会社法第341条)。
これは特殊普通決議と呼ばれている決議要件で、普通決議と異なり定足数を3分の1まで緩和することが可能です(定足数を排除することはできません)。
定款で定足数を緩和することにより、一方の株主と連絡が取れなくなった場合でも株主総会の決議をすることができるようになります。
設立後の最初の取締役の任期を1年とする
2人以上の人が一緒にビジネスを行えば、合う合わないはどうしてもでてきます。
取締役の任期を10年まで伸長できるなら10年にしとこう、と思っても、途中で意見が合わなくなって取締役を辞めてもらうことは簡単なことではありません。
株主構成によっては解任をすることもできますが、正当な理由がないと在任期間分の報酬を支払わなければならなくなる可能性もあります。
そこで、会社設立後の1期目だけは取締役の任期を1年とすることも考えられます。
お互いに合わない、連絡が取れなくなった、取締役としての適性がない、のであれば任期満了後に再任しないことにより、その人はそれ以降取締役ではなくなります。
株主間契約を締結する
AさんとBさんで、株主間契約を締結しておくという方法があります。
主な内容としては、取締役でなくなったときは株式を譲渡することやその価格、そして保有している最中は譲渡や担保権の設定を禁止するようなものとなるかと思います。
取締役は辞めるけれども、株式は保有し続けたいという方もいるため何かあったときに株式を回収できる旨の契約は重要です。
種類株式を活用する
発行する株式に取得条項を付けておき、一定の事由が生じたときにその株式を会社が取得するという設計も可能かと思います。
対価として金銭を設定すると分配可能額の制限によって取得できないことも考えられるため、無議決権株式を対価にするのでしょうか。
種類株式を使って対策をするケースはほとんど見たことがありません。
1人が発行済株式の100%を保有
理想だけ言えば、やはり1人の人(法人)が発行済株式の100%を保有した方が会社の運営はしやすくなります。
どうしてもBさんのお金が必要なのであれば会社が借りることもできますし、Bさんの50万円を加えた100万円という資本金が必要なのであればAさんが50万円を借りてAさんが100万円出資することもできます。
(Bさんが対価として株式を求めるのであればこれは難しいです。)
但し、debtとequityは異なりますので、違いを理解した上で行うことをお勧めします(debtは返済義務があります)。
株式を後で買い取る
AさんとBさんが揉めたら、会社に残るAさんがBさんの株式を買い取ればいいようにも思いますが、Bさんが売らないと言ったら買い取ることはできません。
発行済株式の50%を保有しているBさんの株式を、強制的にAさんや会社が買い取ることはできないでしょう。
仲違いしてしまった場合は、何とかBさんに取締役からは外れてもらったとしても、株式を買い戻すことができなければ敵対的な株主(しかも50%保有)が登場することになってしまいます。
Aさんが新しい会社を作って事業譲渡や会社分割をするにも、Bさんに反対されるとその株主総会の決議をすることができません。
なので、事前の対策が大切ということになります。
相手を信頼しているからこそ一緒にビジネスをスタートさせることが普通ですので、何かあったときのことを最初から考えることはなかなか難しいとは思いますが、、、。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。