商業登記関係 合同会社の社員が退社をするときの持分の払戻しと退社手続き
合同会社の社員の退社
定款に別段の定めのない限り、次の場合には、各社員は事業年度の終了の時において退社をすることができます。
- 存続期間を定款で定めなかった場合 又は
- 特定の社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合
この場合においては、退社を予定している社員は、6ヶ月前までに合同会社に退社の予告をしなければならないとされています(会社法第606条1項)。
加えて、合同会社の社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができます(会社法第606条3項)。
多くのケースにおいては、やむを得ない事由により退社または総社員の同意(会社法第607条1項2号)により退社をしている印象です。
法定退社事由
上記のとおり任意的に退社をする他に、合同会社の社員は、次の事由によっても退社します(会社法第607条1項)。
- 定款で定めた事由の発生
- 総社員の同意
- 死亡
- 当該合同会社が消滅会社となる合併
- 破産手続開始の決定
- 解散
- 後見開始の審判を受けたこと
- 除名
※上記3、4は相続人や存続会社が持分を承継する旨の定款の定めが可能です。
※上記5、6、7については退社しない旨の定款の定めが可能です。
社員が1名の場合
合同会社には最低社員が1名必要であり、社員が1名もいなくなったときは合同会社は解散します(会社法第641条4項)。
社員が1名しかいない合同会社の社員が持分を金銭等で回収するには、第三者へ持分を譲渡するか、合同会社を解散・清算の手続きを経ることになります。
今は小規模会社のM&A(スモールM&A)が以前より活発に行われており、買い手が見つかればの話ですが、単に解散・清算よりも社員にとってメリットがでることがあります。
持分の払戻しとその評価
合同会社を退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができます(会社法第611条1項)。
退社する社員としては、この払い戻される金額は関心のある事項ではないでしょうか。
なお、社員が現物出資をしたときも、その持分の払戻しは金銭によって行うことができるとされています(会社法第611条3項)。
払い戻される持分
社員の退社により払い戻される持分の計算は、退社時における合同会社の財産の状況に従って計算されます(会社法第611条2項)。
退社時における合同会社の純資産の額をベースとして、その出資割合(持分割合)に応じた額を払い戻します。
合同会社の状況によっては、100万円を出資して10万円しか払い戻されない場合もありますし、100万円を出資して200万円払い戻される可能性もあります。
必ず払い戻しが発生するわけではなく、純資産の額がマイナスであれば、払い戻しを受けられません。
現物出資の対象物に価格の変動があった場合や、将来収益性等を勘案して価格を決定する場合は、税理士・会計士等の専門家に相談をした方がいいでしょう。
出資の払戻し
持分の払戻しと似たような言葉として、出資の払戻しがあります。
社員は合同会社に対して、出資をした金銭等の払戻しを請求することができるとされています(会社法第624条1項)。
出資の払戻しは、出資をした金額を払い戻す行為であり、退社をして合同会社の社員でなくなってしまう持分の払戻しとは異なります。
持分の払戻しと債権者保護手続き
払い戻しをする金額によっては、合同会社の経営が傾きかねず、当該合同会社の債権者を害する可能性が生じます。
持分の払戻しは、その額によって債権者保護手続きが必要となります(会社法第635条)。
以下、合同会社が持分の払戻しにより社員に対して交付する金銭等の帳簿価額を「持分払戻額」といいます。
持分払戻額が剰余金以下の場合
持分払戻額が剰余金を超えない場合は、債権者保護手続きは不要です。
但し、資本金が減少するときは資本金減少に係る債権者保護手続きが必要です。
持分払戻額が剰余金以上、純資産額以下の場合
持分払戻額が剰余金を超えるが、純資産額以下の場合は、債権者保護手続きが必要です(会社法第635条2項)。
この債権者保護手続きは、減資と同様に「官報公告+各債権者への催告」の方法で行いますが、≫ダブル公告によって債権者への各別催告を省略することは可能です。
官報公告及び各債権者へ催告する内容は次のとおりです。
- 当該剰余金額を超える持分の払戻しの内容
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
公告期間は1ヶ月を下回ることはできませんので、官報公告の申込み期間を含めると1ヶ月半以上かかってしまうことになります。
持分払戻額が純資産額を超える場合
持分払戻額が純資産額を超える場合は、債権者保護手続きが必要なことは当然ですが(持分払戻額が剰余金を超えるため)、その方法が持分払戻額が純資産額以下の場合のときよりも重くなります(会社法第635条2項、3項、5項)。
具体的には次の点で異なります。
- 債権者が異議を述べることのできる期間が2ヶ月
- 各債権者への催告を省略することができない
- 異議を述べた債権者に対しは弁済、担保提供、弁済を目的とした信託が必須
公告期間は2ヶ月を下回ることはできませんので、官報公告の申込み期間を含めると2ヶ月半以上かかってしまうことになります。
資本金が減少する場合
退社する社員の出資のうち、資本金及び資本剰余金に計上されていた額は、当該社員の退社にともない減少します。
社員の退社により資本金が減少するときは、通常の減資手続きと同様に債権者保護手続きを経る必要があります。
公告期間は1ヶ月を下回ることはできませんので、官報公告の申込み期間を含めると1ヶ月半以上かかってしまうことになります。
社員の退社と変更登記
業務執行社員と代表社員の変更が生じたときは、その変更の時から2週間以内に登記をしなければなりませんので(会社法第915条1項)、退社をする社員が業務執行社員や代表社員であるときはその変更登記をします。
加えて、退社にともない資本金が減少したときは、資本金の額の変更登記もします。
退社する社員が業務執行社員でも代表社員でもなく、資本金も減少しない場合は登記簿の変更が生じないことになります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。