不動産登記関係 公正証書遺言がある場合の相続登記手続き
遺言と相続登記
人が亡くなったときは、亡くなった人(以下「被相続人」といいます)の財産に関する権利義務を相続人が承継することになり(民法第896条)、誰がどの割合で相続財産を承継するかは民法で定められています(民法第887条、889条)。
例えば、被相続人に妻と子がいるときは、妻と子が相続人となり、それぞれの相続分は2分の1ずつとなります。
法定相続分をベースとして、相続人同士が遺産分割協議をして相続財産の分け方を決めることが一般的です。
遺言により不動産承継者の指定
ところで、被相続人が遺言をのこしていたときはその遺言の内容が優先されるため、法定相続人が法定相続分どおりに承継するのではなく遺言の内容に従って相続財産が承継されます。
被相続人が遺言で、被相続人が所有していた不動産を特定の相続人に相続させると指定していることがあります。
この場合、被相続人の名義となっている不動産については、その名義を不動産を相続すると指定された相続人名義へと変更する登記(以下「相続登記」といいます)をすることになります。
なお、遺言者の財産につき、遺言により法定相続人ではない第三者へ遺贈をすることもできますが、ここでは遺贈については割愛しています。
≫相続人ではない第三者へ遺贈する旨の公正証書遺言があった場合の遺贈登記
公正証書遺言と相続登記
遺言には主に自筆証書遺言と公正証書遺言、そして秘密証書遺言の3種類があります。
公正証書遺言は公証人が作成する遺言であるため遺言が無効になる可能性が低く、遺言の原本が公証役場に保管されるため偽造や紛失のリスクがありません。
そのため、公正証書遺言は遺言の中でも人気のある遺言の一つであり、当事務所でも遺言を作成するときは公正証書遺言をお勧めしています。
公正証書遺言により不動産を相続した相続人は、その公正証書遺言を使って、自身で自分名義へ相続登記をすることが可能です。
遺言書の検認手続きが不要
公正証書遺言は、自筆証書遺言や秘密証書遺言とは異なり、家庭裁判所による遺言の検認手続きが不要です。
公正証書遺言は、検認手続きを経ることなくそのまま相続登記の添付書類として使用することができます。
公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているため、正本または謄本を相続登記の申請書に添付することになります。
公正証書遺言による相続登記
公正証書遺言がある場合の相続登記の申請は、
- 管轄法務局へ、
- 登記申請書と添付書類を提出し、
- 同時に登録免許税を納付
して行います。
管轄法務局とは、相続登記の対象不動産を管轄する法務局のことをいい、東京都港区の不動産の管轄法務局は「東京法務局港出張所」です。
「地名+法務局」で検索をすると管轄法務局が分かります。
埼玉県上尾市にある不動産の相続登記をするケースでは、「埼玉県上尾市+法務局」で検索すると管轄法務局が「さいたま地方法務局上尾出張所」であることが分かります。
誰が相続登記の申請人となるか
遺言があるときの相続登記は、不動産を承継した相続人が申請をします。
「下記の不動産は、Aに相続させる。遺言執行者としてXを指定する。」という遺言があった場合、他の相続人BC及び遺言執行者Xは当該不動産の相続登記を申請することができません。
この相続登記を申請することができるのはAです。
相続登記の添付書類
公正証書遺言による相続登記の添付書類は次のとおりです。
- 公正証書遺言の正本または謄本
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
- 遺言者の住民票除票または戸籍附票
- 不動産を取得する相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票
- 対象不動産の固定資産評価証明書(申請する年度のもの)
上記書類は全て原本還付をすることができます。
公正証書遺言や戸籍は相続登記手続きだけでなく他の相続手続きにおいても使用するため、相続登記の添付書類は原本還付をした方がいいでしょう。
相続登記の登録免許税
相続登記を申請するときは、登録免許税を法務局へ納付します。
具体的には、書面で登記申請をする場合、登録免許税に相当する額の収入印紙を申請書に貼付して納めます。
相続登記の登録免許税は、対象不動産の固定資産税評価額に1000分の4を乗じた金額です。
例えば、評価額が1000万円の土地の相続登記の登録免許税は4万円(1000万円×4/1000)となります。
相続登記の登録免許税の詳細な計算方法については、こちらのコラムをご参照ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。