商業登記関係 取締役の再任の登記に、当該取締役の印鑑証明書の添付は必要でしょうか
取締役の就任と印鑑証明書
取締役の就任による変更登記の申請書には、当該取締役が就任を承諾したことを証する書面を添付する必要があります。
そしてこの書面には当該取締役の実印を押印して、その印鑑証明書を添付しなければなりません(商業登記規則第61条2項)。
(添付書面)
商業登記規則第61条2項(前段省略)
取締役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書に添付すべき取締役が就任を承諾したことを証する書面の印鑑についても、同様とする。
取締役会設置会社の場合
就任の承諾を証する書面に実印を押して、その印鑑証明書を求められるのは取締役会のない会社では各取締役ですが、取締役会のある会社では代表取締役のみが該当します。
一方で、取締役会のある会社の取締役が就任する変更登記の申請書には、本人確認証明書の添付が求められています(商業登記規則第61条5項)。
再任の場合を除く
取締役の就任を承諾する書面につける印鑑証明書は、取締役が再任したことによる変更登記の場合は添付をする必要がありません。
これは、取締役会のある会社の取締役に関する本人確認証明書においても同様です。
ここでいう再任とは、どのような場合を指しているのでしょうか。
登記手続き上、再任に該当するケース
商業登記・法人登記の手続き上、「再任」とは、同じ人の退任に関する登記と就任に関する登記が、一つの申請書によってされることをいいます。
一つの申請書で申請される限り、退任と就任が同時に行われる場合はもちろんのこと、退任日と就任日が離れている場合においても再任に該当します。
以下、具体的なケースを見てみましょう。
任期満了により再選されたケース
平成31年3月27日の定時株主総会の終結時に取締役Aの任期が満了し、取締役Aがその定時株主総会で取締役に選任された場合は、再任に該当しますので取締役Aの就任を承諾する書面につき印鑑証明書は不要です。
なお、この場合、退任と就任の間に時間的差がないため、「平成31年3月27日重任」のように原因を「重任」として登記することになります。
重任の登記は、登記原因が一つである(退任と就任に登記原因が分かれない)ため、申請書が二つになるということはありません。
選任懈怠しているケース
取締役Bの任期が平成24年3月15日に開催された定時株主総会の終結時に満了していたにもかかわらず、選任手続きを忘れていた場合はどうでしょうか。
選任懈怠に気付き、平成31年3月27日の定時株主総会で取締役Bを選任(就任)したときは、「平成24年3月15日退任、平成31年3月27日就任」を登記原因として変更登記を申請します。
この場合も、一つの申請書によって登記申請がされる限りにおいて、再任に該当しますので取締役Aの就任を承諾する書面につき印鑑証明書は不要です。
辞任したが再度選任されたケース
取締役Cの任期が平成28年3月15日に辞任していたにもかかわらず、その登記手続きを忘れていた場合はどうでしょうか。
取締役Cの辞任による退任登記手続きを忘れていたところ、やはりCが取締役に戻るということになり、平成31年3月27日の定時株主総会で取締役Cを選任(就任)したときは、「平成28年3月15日辞任、平成31年3月27日就任」を登記原因として変更登記を申請します。
この場合も、一つの申請書によって登記申請がされる限りにおいて、再任に該当しますので取締役Aの就任を承諾する書面につき印鑑証明書は不要です。
これは、取締役Aが権利義務取締役であるかどうかによって結果は影響されません。
退任と就任の登記を別々に申請する
上記の取締役Bあるいは取締役Cが、その退任の登記と就任の登記を別々に申請した場合はどうなるでしょうか。
この場合は再任に該当しませんので、取締役Bまたは取締役Cの就任を承諾する書面につき印鑑証明書が必要となります。
これは、(一つの申請書で申請されない限り)同日に退任の登記と就任の登記を申請した場合でも同様です。
※同日での退任の登記と就任の登記につき別の登記申請書で申請をしてしまうと、登録免許税が2倍かかるため、そのように申請するケースはほとんどありません。
別の理由で印鑑証明書が必要となることも
取締役が再任する場合は、その就任を承諾する書面につき印鑑証明書が不要であることは前述のとおりです。
例えば、取締役会のない会社の現在の取締役がXY(代表取締役X)で、任期満了により取締役がZY(代表取締役Z)に変更したようなケースがあったとします。
このとき、取締役Zの就任を承諾する書面につき印鑑証明書が必要となることは分かりやすいかもしれません。
さてここで、取締役Yの印鑑証明書は必要になるでしょうか。
取締役Yは再任に該当しますので就任を承諾する書面につき印鑑証明書は不要ですが、取締役Zを代表取締役に選定したことを証する書面について印鑑証明書が必要となります(商業登記規則第61条4項)。
ただし、代表取締役Xが代表取締役Zの選定に関与して、当該書面に届出印(会社実印)を押印したときは、取締役Yの印鑑証明書は全く不要となります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。