商業登記関係 募集株式の発行(増資)のときに、予定より申込みが少なくても登記可能か
募集株式の申込み
募集株式の発行をするときは、募集事項の決定(会社法第199条1項、2項)をした後に、募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、次に掲げる事項を通知します(会社法第203条1項)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
- 前3号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
多くの中小企業における募集株式の発行のケースでは、事前に出資者と話が付いた上で株主総会の決議等の手続きを進めていくことがほとんどでしょう。
決議後に申込みをやめた
ABCDEの5名に100株ずつ交付するという約束で話がまとまり、募集株式の発行手続きを進めて株主総会の決議を経た後に、Eが申込みをしなかった場合はどうなるでしょうか。
この場合、申込み⁺割当て方式であれば、Eを除くABCDの4名のみによる募集株式の発行手続きが成立します。
なお、会社手続きとは別の論点として、出資するという契約を会社とEが締結していたときにそれをEが破棄したのであれば、契約違反となるでしょう。
申込者が未確定
非公開会社においても、申込みをしようとする者が未確定である状況で募集株式の発行手続きをすることはできます。
ABCDEの5名のうち何名かは応募してくるであろうという予測で手続きを進めたして、ABCDの4名が募集株式の引受けの申込みをしてきたときは、ABCDの4名の出資による募集株式の発行が成立します。
募集株式の発行手続きによる注意点
出資を予定者と実際の申込者が異なる可能性がある場合、募集事項の決定で何か注意すべき点はあるでしょうか。
募集株式の発行における募集事項は次のとおりです(会社法第199条1項)。
- 募集株式の数
- 募集株式の払込金額又はその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
- 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
増加する資本金及び資本準備金
募集株式の数を500株として決議し、実際の申込みのあった株式の数が400株であったとしても何の問題もありません。
一方で、「増加する資本金及び資本準備金」につき具体的な金額を入れてしまうと、整合性が取れなくなる可能性があります。
500株発行し、1株の払込金額を5万円とした場合に、増加する資本金1250万円、増加する資本準備金1250万円とするようなケースです。
100株の申込みがなかったときに、資本金等増加限度額が2500万円ではなく2000万円となるため、金額の整合性が取れなくなってしまいます。
この場合、増加する資本金の額は、
等としておくと、出資された額に関わらずその2分の1は資本金とすることができます(出資額の2分の1を資本準備金に計上したい場合)。
総数引受契約方式にしない
募集株式の発行につき、第三者割当増資の場合、「申込み+割当て方式」と「総数引受契約方式」があります。
総数引受契約方式の場合、原則として引受人全員が発行する株式の総数を引き受けることになります。
株主総会の決議後に、引受け予定者のうち1名が引き受けない場合、総数引受契約方式で進めることが難しいことになります。
総数引受契約方式であれば、5名全員が新たに発行する株式を引き受けることが前提となっているため、株主総会の決議をやり直すことになると考えます。
(総数引受契約方式でも、残り4名が400株全てを引き受けるのであれば登記が通ったという話を聞いたこともあります。)
募集事項の決定を取締役(会)へ委任
株主総会の決議で募集事項を取締役に委任することができますので(会社法第200条1項)、出資者との投資契約がまとまる前に、株主総会を開催して募集株式の枠取りだけをしておくことも可能です。
株主総会を開催することができるタイミングが限られている会社や、募集株式の発行をすることは決まっているので株主総会だけとりあえず進めておこうと考える会社は少なくありません。
この場合、その委任に基づいて取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)が募集事項の決定をすることができる募集株式の数の上限及び払込金額の下限を定めなければなりません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。