商業登記関係 株式分割を利用して、新たに出資をする人の持分比率を調整する
新たな出資と株式の持分比率
借入ではなく出資として資金調達をするために、出資者に対して株式を交付することがあります。
1株当たりの払込金額をいくらに設定し、合計何株を交付するかは会社側にとっても出資者側にとっても大きな関心事項です。
株式の持分比率(以下、単に「持分比率」といいます)は、持分比率によって生じる少数株主権に影響を与えるだけでなく、特別決議等といった決議要件、あるいは剰余金の配当として各株主が受け取る金額にも影響があります。
そのため、出資者に対して交付する株式数につき、出資額が変わらないのであれば会社側はなるべく少なく、出資者側はなるべく多くしたいというインセンティブが働くことが少なくありません。
交付する株式数に端数が生じる
出資者の持分比率は決まったけれども、交付する株式数に端数が生じてしまうケースがあります。
例えば、発行済株式数が100株の株式会社Xにおいて、新たに出資をする人が持分比率を約0.5%とすることで合意ができたとします。
当該出資者に対して1株だけ発行したとしても、持分比率が約0.99%(101株中1株保有)となってしまい、持分比率を約0.5%とする当初の合意の結果を実現することができません。
また、出資者に対して0.5株を発行するということもできません。
このようなケースでは、株式分割を利用することによって持分比率を調整ことになるでしょう。
株式分割を利用して持分比率を調整する
株式会社Xについき、新たに出資をする人の持分比率を0.5%とするために株式分割を利用するとどうなるでしょうか。
現在の株主が1名であれば、100株を195株に株式分割し(95株増加)、新たに5株を発行することにより今回の出資者の持分比率を0.5%(200株中5株保有)とすることができます。
現在の株主が複数いて、株式に端数を生じさせないで100株を195株に分割することが難しい場合はどうでしょうか(株主2名、50株ずつ保有)。
例えば、100株を200株に株式分割し(100株増加)、1株を出資者に交付すると出資者の持分比率は約0.497%となり、2株交付すると約0.99%となってしまいます。
分割比率を調整して持分比率を希望に近づける
出資者が持分比率を約0.497%でなく、少なくとも0.5%以上でないと納得しない場合は、株式の分割比率を検討することになるでしょう。
100株を2000株に株式分割し(1900株増加)、11株を出資者に交付すると出資者の持分比率は約0.547%となります。
100株を20000株に株式分割し(19900株増加)、101株を出資者に交付すると出資者の持分比率は約0.502%となり、分割比率を大きくすることにより0.5%という数字に近づけることは可能です。
株式分割を行う方法
株式分割は株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって行うことができます(会社法第183条2項)。
株式分割の手続きについては、こちらの記事をご覧ください。
増資の効力発生条件
株式分割と募集株式の発行が今回はワンセットであると会社が考えているときに、株主総会において、株式分割の決議だけが承認を得られないということはケースとしては稀でしょう。
万が一にも募集株式の発行だけ効力が生じるという状況を避けるために、募集株式の発行の効力発生につき、株式分割の効力発生を条件としておく方法が考えられます。
条件を付けておくことにより、株主総会において株式分割の承認を得られず、募集株式の発行だけ承認を得られたとしても、募集株式の効力が発生するという状況を避けることができます。
また、そうすることで株式分割→募集株式の発行という効力発生の順序が明確になり、新たに発行する株式が株式分割の対象でないということも分かりやすくなります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。