商業登記関係 一般社団法人の理事、監事との責任限定契約とその登記手続き
非業務執行理事等と責任限定契約
理事又は監事(以下「役員」といいます)は、その任務を怠ったときは、一般社団法人に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」といいます)第111条1項)。
この責任は、総社員の同意がなければ、免除することができません(法人法第111条2項)。
一方で一般社団法人は、非業務執行理事又は監事は、上記責任について、職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、「定款で定めた額の範囲内であらかじめ一般社団法人が定めた額」と「最低責任限度額」とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行理事又は監事と締結することができる旨を定款で定めることができます(法人法第115条1項)。
責任限定契約を締結できる人
一般社団法人と責任限定契約を締結できる人は、次のとおりです。
- 当該一般社団法人の業務執行理事以外の理事
- 当該一般社団法人の使用人ではない理事
- 当該一般社団法人の監事
- 当該一般社団法人の会計監査人
これらを併せて「非業務執行理事等」といいます。
限定できる賠償の範囲
責任限定契約では、一般社団法人に対する損害の賠償責任につき、「定款で定めた額の範囲内であらかじめ一般社団法人が定めた額」と「最低責任限度額」とのいずれか高い額を限度とすることができます。
「最低責任限度額」とは、非業務執行理事等がその在職中に一般社団法人から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の1年間当たりの額に相当する額として法務省令で定める方法により算定される額の2倍の額をいいます(法人法第113条1項)。
責任限定契約の失効
責任限定契約を締結した非業務執行理事等が当該一般社団法人の業務執行理事又は使用人に就任したときは、当該契約は、将来に向かってその効力を失います(法人法第115条2項)。
一般社団法人が損害を受けたとき
非業務執行理事等と責任限定契約の締結後、一般社団法人が、当該契約の相手方である非業務執行理事等が任務を怠ったことにより損害を受けたことを知ったときは、その後最初に招集される社員総会において次に掲げる事項を開示しなければなりません(法人法第115条4項)。
- 責任の原因となった事実及び賠償の責任を負う額
- 免除することができる額の限度及びその算定の根拠
- 当該契約の内容及び当該契約を締結した理由
- 当該非業務執行理事等が賠償する責任を負わないとされた額
加えて、当該契約によって責任の一部を免除した業務執行理事等に対し、退職慰労金その他の法務省令で定める財産上の利益を与えるときは、社員総会の承認が必要です(法人法第115条5項)。
責任限定契約を締結する手続き
非業務執行理事等と責任限定契約を締結するには、その旨を定款に定めなければなりません。
そして非業務執行理事等と責任限定契約を締結することができる旨は、一般社団法人の登記事項とされているため登記手続きも必要となります。
一般社団法人が初めて業務執行理事等と責任限定契約を締結するときの手続きの一例は次のとおりです。
- 社員総会の招集
- 社員総会の開催
- 責任限定契約を締結
- 登記申請
社員総会の招集、監事の同意
理事会の決議(理事会非設置法人は理事の過半数の決定)によって、非業務執行理事等と責任限定契約を締結する旨、それに係る定款変更、社員総会の招集を決定します。
理事と責任限定契約を締結することができる旨の定款の定めに関する議案を社員総会に提出するには、監事(監事が2人以上ある場合にあっては、各監事)の同意を得なければなりません(法人法第115条3項)。
社員総会の開催
社員総会を開催し、特別決議によって定款を変更します。
非業務執行理事等と責任限定契約を締結することができる旨の定款の定めの一例は次のとおりです(理事 ver.)。
責任限定契約の締結
一般社団法人と非業務執行理事等の間で、責任限定契約を締結します。
責任限定契約の締結と、責任限定契約を締結することができる旨の登記の前後は問われていません。
しかし、責任限定契約を締結することができる旨の登記が完了する前であっても契約を締結することはできますが、速やかに登記申請を進めることをお勧めします。
登記申請
責任限定契約を締結することができる旨を定款に定めたときは、その効力発生日から2週間以内に登記申請をします。
当該登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 社員総会議事録
- 定款
登録免許税は3万円です。
以前は登記事項であった外部理事、外部監事はそれ自体がなくなりましたので、その旨の登記は不要です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。