商業登記関係 一般社団法人の役員(理事・監事)の任期が過ぎてしまっているとき
役員の任期と選任懈怠
一般社団法人の理事及び監事(併せて、役員といいます。)には任期があり、任期の満了をもって役員は退任します。
理事の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までであり(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下、法人法といいます)第66条)、
監事の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとなっています(法人法第67条1項)。
ただし、監事の任期は定款に定めることにより、「4年以内」の部分を「2年以内」にまで短縮することができます。
役員の任期は、選任の日からぴったり2年(または4年)ではないため、任期の計算には注意が必要です。
≫一般社団法人・一般財団法人の理事・監事の任期
なお、株式会社(非公開会社)とは異なり、一般社団法人においては定款に定めたとしても役員の任期をそれぞれ10年まで伸長することはできません。
役員の任期が切れていた…
- 役員の任期の計算を間違っていた…
- 役員に任期があることを知らなかった…
- 同じ人が役員であり続けるときは再選や登記の手続きが不要だと思っていた…
- 任期がもうすぐ満了することは知っていたが理事の選任決議をし忘れていた…
などを理由に、役員の任期が切れてしまっているケースがあります。
役員の任期が切れてしまっている場合、このまま放置していいということはなく、早急に対応をしなくてはなりません。
既に役員ではなくなっている可能性
役員がその任期を満了すると退任することになります。
辞任とは異なり、任期満了による退任にはその役員の意思は関係がありませんので、任期が終われば自動的に退任をしてしまいます。
既に役員ではないのに、役員として行動してしまっているという状況も決してないわけではありません。
権利義務理事、権利義務監事
任期満了により退任した役員は、その役員が退任することにより役員の数が会社法または定款で定めた人数に満たなくなってしまうときは、新たに役員が選任(再任を含みます。以下同じ)されるまでは役員としての権利義務を有します(法人法第75条1項)。
そもそも1名も後任者が選任されていない場合以外にも、理事会設置法人の理事3名が任期満了したが後任者が2名しか選任されなかったケースや、理事会非設置法人の理事2名が任期満了したが後任者が1名しか選任されなかったケース(定款に理事2名以上の規定あり)も含まれます。
役員としての権利義務を有してはいますが、任期が切れていることには変わりはありませんので、早急に役員を選任しなければなりません。
役員の任期が切れているのに役員の選任をしていない状況は、役員の選任懈怠の状態ですので、これは過料の対象となります。
ずっと登記せずに放置をしていると…
登記を懈怠していてると何が問題になるのでしょうか。
まず、前述のとおり登記懈怠あるいは選任懈怠により過料に処せられてしまう可能性があります。
次に、一般社団法人の場合は5年以上何も登記をしていない場合は、一定の手続きを経た後に登記官の職権で解散の登記を入れられてしまいます。
みなし解散と継続の登記
大事な取引の際に、相手の法人登記簿謄本の提出を求められ見てみたら、いつの間にか解散の登記がされていた、、、解散状態の法人とは取引をしない可能性は低くはないかもしれません。
法人の活動に共感をして、会員になりたいと考えた人が当該法人を確認する意味で登記簿謄本を取ってみたときに、解散の文字が入っていたらどうでしょうか。
登記官の職権で解散の登記をされた後も、解散状態を解消する「継続の登記」をすることは可能ですが、役員変更登記と比較して多くの費用がかかります。
≫一般社団法人がみなし解散状態を脱する方法(法人継続の登記)
役員を選任する
役員の選任懈怠を解消するには、社員総会を開催して役員を選任する必要があります。
理事会設置法人においては理事が3名以上いなければならないところ、後任者が1名しか決まらないような場合は、理事の人数を1名とするために理事会を廃止する方法が考えられます。
このような場合は、社員総会で理事を選任する他に、社員総会の特別決議によって定款の変更をすることになります。
役員の退任日、就任日
権利義務役員は、特定の定時社員総会の終結の時に任期が満了して退任しています。
平成29年3月末の事業年度に関する定時社員総会の終結の時が任期満了である役員の退任日は、平成29年5-6月頃に実際に定時社員総会が終結した日です。
定時社員総会を開催をしていなかった場合は、定款に事業年度末から3ヶ月以内に定時株主総会を開催すると定められているような法人においては、平成29年6月末日が退任日となります。
なお、選任日に関わらず役員の就任日は、当該役員が就任を承諾した日です。
選任された役員の任期
役員の任期の起算点は、当該役員が就任した日に関わらず、当該役員が選任された時です。
これは以前の役員が任期満了し、数年経ってから同じ役員が選任されたときも変わりはありません。
例として、任期が2年以内に終了する事業年度~となっている法人においては、その法人の事業年度が12月末締めのケースでは次のようになります。
平成25年3月に選任された理事Xが、平成27年3月に任期満了による退任していたが権利義務理事となっている場合に、平成28年3月の定時社員総会でXが理事として改めて選任されたときは、平成30年に開催される定時社員総会の終結時までがXの任期となります。
権利義務役員を再度選任した場合の本人確認証明書
上記の理事Xが理事会設置法人の取締役(代表理事ではない)であったときに、退任と就任の登記を1つの申請でする場合は、登記申請の添付書類として本人確認証明書は不要とされています。
これは上記の理事Xのように、退任日と就任日に間が空いているようなケースにおいても同様です。
なお、理事会非設置法人の理事や、理事会設置法人の代表理事の就任登記に添付が求められている印鑑証明書についても、退任と就任登記を1つの申請で行う限り同様に不要となります。
早く登記申請をする
役員の任期が過ぎていたとしても、事業を継続するのであれば、いつかは必ず役員変更の登記を申請しなければなりません。
登記懈怠・選任懈怠はその期間が長ければ長い程、過料が課される可能性が高くなり、金額も大きくなるという話を聞きます。
そうであれば法人として行うことは、任期切れに気付いてから早い段階で社員総会を開催して役員の選任をし、その登記申請をすることではないでしょうか。
役員の変更登記でお困りの方は、こちらの≫お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。