相続関係 遺言関係 遺言を書いた方がいいケース③-法定相続人がいない-
法定相続人
相続とは、人が死んだときに、その人が持っていた財産の権利義務を、相続人が受け継ぐことをいいます。以下、亡くなった方を被相続人といいます。
誰がどれだけ権利義務を相続するのかは、民法に定められていますが(法定相続人についてはこちらをご覧ください)、「誰が」の部分については遺言によって変更することが可能であり、「どれだけ」の部分については相続人同士の遺産分割の協議によって変更が可能です(特定遺贈の受遺者除く)。
法定相続人がいない場合
法定相続人は、相続ができる人を民法が限定しているため、当然の結果として法定相続人がいない相続というものもあり得ます。この場合についても、誰が相続財産を取得するのかは民法に規定があります。
まず、遺言があるのであれば、基本的には遺言の内容のとおりに財産は相続されます(法定相続人がいた場合もですが)。
次に、法定相続人がおらず、遺言も遺されていない場合はどうなるでしょうか。結論から申し上げますと、一定の手続きを経て特別縁故者、国またはその両方が取得することになります。
本ページの最後に「一定の手続き」を記載していますので興味がありましたらご覧ください。
特別縁故者
法定相続人が誰一人としていない場合は、特別縁故者なる者が、一定の条件のもとで相続財産を一部あるいは全部取得することができます(正確に申し上げますと相続財産を一部あるいは全部くださいと家庭裁判所に請求することができる、となります)。
この特別縁故者とは、民法第958条3項によると、次の要件を満たす者とされています。
・被相続人と生計を同じくしていた者 ⇒ 内縁の妻や事実上の養子など
・被相続人の療養看護に努めた者 ⇒ 療養看護をしていた亡息子の妻など
・その他被相続人と特別の縁故があった者 ⇒ 被相続人と非常に親密だった者など
法定相続人不存在が要件
特別縁故者は、法定相続人が誰一人としていない場合に初めて、相続財産の分与を家庭裁判所に申し立てることができます。長年連れ添った内縁の妻も、長年看護にあたった長男の妻も、法定相続人が一人でもいれば特別縁故者として相続財産をもらえる可能性はありません。
⇒遺言を書いた方がいいケース②-内縁の夫婦-
⇒遺言を書いた方がいいケース④-お世話になったあの人に-
相続人がいなくても、特別縁故者は必ず財産をもらえるわけではない
(相続人がいない前提です)私は内縁の妻だから、私はこれだけ被相続人に尽くしたから財産をもらえるに違いない、ということはありません。
つまり、当人が特別縁故者に該当するのかどうか、該当した場合どれくらいの財産を分与するのか、は家庭裁判所が決めることなのです。相続財産100%を分与するのであれば、遺言を遺したり、養子縁組をしたりする必要があります。
財産分与の申立をする必要がある
特別縁故者だからといって、何もせずに勝手に家庭裁判所が特別縁故者かどうか、その財産分与額を判断してくれるわけではありません。特別縁故者として財産分与を希望するのであれば、家庭裁判所に対してその申立てをする必要があります。この申立てには期限があります。その期限を逃すと、財産は全て国のものとなります。
期限を守って、家庭裁判所に財産分与の申立てをする(さらに財産100%確実に分与されるわけではない)というのは、一般の方にはなかなかハードルが高いと言えます。
共有持分
共有持分とは、例えば土地を3人が3分の1ずつ所有している状態の、その3分の1をいいます。民法第255条によると、共有者が死亡して相続人がいない場合は、他の共有者のものとなるとされています。つまりABCさんがそれぞれ3分の1の持分を所有している状態でAさんが亡くなったとき(相続人なし)は、Aさんの持分3分の1が半分ずつBCさんの手に渡ることになります。結果としてBCさんが2分の1ずつ持分を所有することになる、というのが民法第255条です。
そこで、Aさんに特別縁故者なるDさんがいたとしたらどうでしょう。これについては判例が出ており、結論は、DさんはBCさんに優先されることになります。
お世話になったあの人に、理念や活動に共感できる団体に
相続人がいない場合、俺には家族(相続人)がいないから俺の財産は今世話をしてくれてるXさんのものになるだろう、と勘違いをされたまま亡くなると、Xさんが特別縁故者と認められない限りは、国のものとなります。
頑張って築いた財産が全て国のものになる、それはそれで悪いことではありません。
しかし、相続において大事なものは何か、という問いに対して私は被相続人の「想い」が答えだと思っています。被相続人がもし内縁の妻に、長男の妻に自身の財産を使って欲しいのであれば、遺言(や養子縁組)はその想いを叶えるツールになると思います。また、財産を分与する相手は個人に限られません。動物愛護団体や世界の子どもたちを援助している団体など、団体や法人が分与先でも全く問題はありません。
ただし、遺言には有効であるためのルールがあります。日付を書き忘れたために遺言が全て無効、という事態に陥らないように専門家に確認をしながら進めることをお勧めします。
相続人がいない場合の手続き
以下、「一定の手続き」の概要です。
1)相続財産管理人選任の申立
利害関係人などが家庭裁判所に申し立てます。
2)相続財産管理人選任の公告
公告期間は2ヶ月
3)債権者及び受遺者に対する請求申出の公告
公告期間は2ヶ月以上、知れたる債権者へは各別催告
4)相続人捜索の公告
公告期間は6ヶ月以上、期間経過により相続人がいないことが確定
5)特別縁故者が財産分与の申立
特別縁故者が家庭裁判所へ申し立てます。4)の公告期間満了から3ヶ月以内
6)分与の審判
家庭裁判所が分与の審判、却下の可能性も当然あります。
7)特別縁故者へ財産引渡し、残余財産の国庫への引継ぎ
分与の審判が確定したらその分を特別縁故者に引き渡す。
財産分与の申立がなかった場合、分与の申立が却下された場合、特別縁故者へ一部しか分与しなかった場合は、相続財産は国庫に帰属します。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。