マルタに持株会社を作るとどんなメリットがあるのか
欧州で事業を展開する企業にとって、持株会社(Holding Company)の設置は単なる税務上の工夫ではありません。複数国にまたがる事業・投資・M&Aを一箇所から管理し、将来の拡張や出口戦略にも対応できる「経営の器」を作ることが本来の目的です。
マルタはそのような持株会社の拠点として、欧州でも独自の位置付けを持っています。大規模な多国籍企業向けのオランダやルクセンブルクとは異なり、マルタは中堅・中規模の企業が扱いやすい規模感・英語環境・コスト水準を持ちながら、EU加盟国としての信頼性を備えています。
どんな使い方があるのか:3つの典型的なシナリオ
マルタ持株会社の活用パターンは、大きく3つに分類されます。
① 欧州M&Aプラットフォーム
欧州企業を買収する際に、日本の親会社が直接買収するのではなく、マルタ持株会社を中間に置く構造です。欧州では、このような中間持株会社を通じたクロスボーダーM&Aは広く行われており、マルタもその拠点のひとつとして活用されています。将来的な追加投資・共同投資・一部売却といった選択肢を維持しやすく、M&A後の統合管理(PMI)においても機動的な対応が可能です。
② 欧州複数国統括(EU持株会社・欧州統括会社)
ドイツ・フランス・イタリアなど複数国に子会社を持つ場合、マルタにEU持株会社を設けることで、各国子会社への出資・配当の集約・ガバナンス管理を一箇所から行うことができます。日本本社が直接各国を管理するよりも、情報の集約と意思決定の効率化が図れます。欧州統括会社としての機能を持たせることで、事業拡大・再編・撤退いずれの局面にも対応しやすくなります。
③ IP管理拠点
特許・商標・ソフトウェアなどの知的財産(IP)をマルタ法人に集約し、EU域内の子会社へライセンスを提供する構造です。IPの保有と管理を一箇所に集約することで、グループ内のIP戦略を整理しやすくなります。
マルタ持株会社の主な機能
上記の活用シナリオを支える、持株会社の具体的な機能は以下の通りです。
配当の集約
EU域内子会社からの配当をマルタ持株会社に集め、日本本社への還流を管理する
売却益の管理
子会社株式の売却益をマルタで受け取り、グループ内で効率的に活用する
複数国投資管理
EU域内の複数の子会社・投資先への出資をマルタから一元管理する
M&A実行拠点
欧州企業の買収・売却・合弁設立をマルタ法人を通じて実行する
IP・ライセンス管理
グループのIPをマルタで保有し、EU域内各社へライセンスを提供する
ガバナンス管理
EU事業全体のコーポレートガバナンスをマルタ持株会社を通じて強化する
EU事業統括スキームのイメージ
下図は、マルタ持株会社を中心に据えたEU事業統括の典型的な構造です。

※上記はイメージです。個別の設計は事業内容・法務・税務論点に応じて異なります。
なぜマルタなのか
EU域内の持株会社拠点としてはオランダやルクセンブルクも広く活用されています。マルタの特徴は、次の点にあります。
英語が公用語
行政・法務・会計すべて英語で完結する、EU加盟国の中でも珍しい環境
設立・維持コストが抑えやすい
中堅・中規模企業でも取り組みやすいコスト水準
中堅企業との親和性
大型ファンド向けではなく、実業系の日本企業に扱いやすい規模感
国際的な専門家エコシステム
RSM Maltaをはじめ、英語で対応できる実務専門家が集積
EU加盟国としての信頼性
EU法の枠組みの下で事業を展開できる法的安定性
主要EU持株会社拠点の比較(一般的な傾向)
| 項目 | マルタ | オランダ | ルクセンブルク |
|---|---|---|---|
| 英語での実務対応 | ◎ | ○ | △ |
| 設立・維持コスト | ◎ | △ | △ |
| 中堅企業との親和性 | ◎ | ○ | △ |
| PE・大型ファンド向け活用 | △ | ○ | ◎ |
| 日本企業の採用事例 | △ | ◎ | ○ |
※上記は一般的な傾向の比較であり、個別の事実関係や事業規模によって異なります。特定国を否定する意図はありません。
M&A・Exit戦略における活用
欧州企業買収時の中間持株会社
欧州企業を買収する際、マルタ持株会社を通じた買収スキームは、将来の追加投資・共同投資・一部売却などの選択肢を維持しやすい構造を実現します。
子会社売却時のストラクチャリング
マルタ持株会社が保有する子会社株式を売却する際は、売却スキームの設計と事前の課税関係の整理が重要です。適切な設計により、売却プロセスを円滑に進めることができます。
グループ再編時の柔軟性確保
事業ポートフォリオの見直し・子会社の統廃合・合弁解消といったグループ再編において、マルタ持株会社を「欧州事業の器」として設計しておくことで、再編に伴うコストと手続きを軽減できます。
投資家受入れ・JV設立への対応
欧州事業への外部投資家受入れや、現地パートナーとの合弁会社(JV)設立においても、マルタ持株会社を窓口として活用することで、資本関係の整理とガバナンス設計がしやすくなります。
日本の親会社からみた税務上の主な確認事項
マルタ持株会社の活用にあたっては、ビジネス上の設計と並行して、日本側の税務論点を確認しておくことが重要です。以下はその主な論点です。
外国子会社配当益金不算入制度
日本とマルタの間には現在、二国間租税条約は締結されていません。そのため、日本側の税務上の取り扱いについては事前に十分な検討が必要です。具体的には、日本企業がマルタ法人から配当を受け取る場合には、日本国内法上の外国子会社配当益金不算入制度や外国税額控除制度の適用可否を検討することになります。一定の要件(持分25%以上・保有6ヶ月以上)を満たす外国子会社からの配当については、原則として95%が益金不算入となります。
日本のCFC税制(タックスヘイブン対策税制)
マルタ持株会社については、日本のCFC税制(外国子会社合算税制)の適用可否を個別に検討する必要があります。適用判定は、マルタ法人の実態・機能・租税負担割合などに基づいて行われます。
移転価格管理
グループ内取引(ライセンス料・役務提供・資金貸付等)については、商業的合理性に基づく価格設定と文書整備が必要です。
持株会社設立・運営の実務的ステップ
Step 1 ビジネス目的とスキームの設計
持株会社の設置目的(EU統括・M&A・IP管理等)と各法人の役割分担を明確にします。ビジネス上の目的が明確であることが、税務・法務設計の土台となります。
Step 2 税務・法務論点の事前整理
CFC税制の適用可否・配当益金不算入の要件確認・移転価格・PE認定リスク等を整理します。RSM汐留パートナーズが日本側論点を、RSM Maltaが現地論点を担当し、一体的に検討します。
Step 3 法人設立と実体の整備
マルタでの法人設立、取締役の選任、銀行口座開設、現地オフィスの確保など、実体を伴った設立対応を行います。
Step 4 コンプライアンス体制の構築
財務諸表作成(監査対応)・税務申告・法定記録の維持など、継続的なコンプライアンス業務を整備します。
Step 5 継続的な見直しと運用支援
制度改正・事業拡大・グループ再編に応じて、当初のストラクチャーを定期的に見直します。
RSM汐留パートナーズとRSM Maltaの協働体制
RSM汐留パートナーズは日本側の税務・申告対応・日本語での意思決定支援を、RSM Maltaは現地でのサブスタンス確保・法人設立・継続的なコンプライアンス対応を担当します。クライアントは日本語で完結するワンストップ窓口から、日本とマルタ双方の専門家チームにアクセスできます。
想定されるご利用ケース
- 欧州企業のM&A・投資を計画しており、中間持株会社となるストラクチャーを整備したい
- 欧州複数国に子会社を持ち、EU持株会社(欧州統括会社)として一元管理したい
- マルタ法人でのIP管理を検討しており、ライセンス構造と税務上の取り扱いを確認したい
- 将来の事業売却・グループ再編を見越した欧州事業のストラクチャリングを相談したい
- 既存のマルタ法人の構造を見直し、ビジネス・税務両面での最適化を図りたい
まとめ
マルタ持株会社の活用は、欧州事業を本格的に展開・管理するための経営インフラとして機能します。M&Aプラットフォームとして、EU統括会社として、IP管理拠点として、その活用の形は多様ですが、共通しているのは「欧州事業を一箇所から効率的に管理する」という目的です。
マルタを持株会社の候補地のひとつとして検討する日本企業も見られるようになってきました。租税条約が未締結であること、また日本国内での認知がまだ限られていることもあり、マルタ持株会社の活用はまだ黎明期にあります。一方で、欧州でのM&A・事業拡大・グループ再編を検討する日本企業にとって、マルタはその選択肢のひとつとして注目され始めています。まずはお気軽にご相談ください。
RSM汐留パートナーズの海外進出支援サービスの特徴
公認会計士(日米)・弁護士・税理士等のプロフェッショナルが多数在籍
多言語対応・海外ネットワークも含めて海外進出コンサルティングが可能
クロスボーダー取引・国際税務に関する経験が豊富
RSM汐留パートナーズのワンストップサービス

今後の流れ

担当者
前川 研吾 Kengo Maekawa
黒住 准 Jun Kurozumi
許 婧怡 Seii Kyo
山口 壮太 Sota Yamaguchi
マルタ持株会社(Holding Company)活用ガイド|EU進出・欧州統括の料金体系
マルタ持株会社(Holding Company)活用ガイド|EU進出・欧州統括の料金体系については想定業務範囲に基づく想定工数から算出した定額方式又はタイムチャージ方式にてお見積をさせていただいております。ご相談事項によっては、定額方式でのご支援が難しい場合もございますが、RSM汐留パートナーズはクライアントのご予算内で費用対効果抜群のサービスをご提供させていただくことをミッションとしています。まずはお気軽に当社コンサルタントまでご相談ください。
