日本法人の経理業務を外注する際、「記帳代行を依頼すれば経理を任せられる」と考えてサービスを選ぶと、期待していた業務範囲との間にずれが生じることがあります。記帳代行の中心となるのは、請求書、領収書、銀行取引などをもとに会計システムへ仕訳を入力する業務です。一方、外資系企業では、入力後の残高確認、月次決算、海外本社へのReporting(レポーティング)まで求められるケースも少なくありません。
そのため、価格だけで比較するのではなく、「入力された帳簿を誰が確認し、月次の数字をどの状態まで仕上げるのか」を確認することが重要です。本記事では、一般的な記帳代行と、月次レビューを含む会計アウトソーシングの違い、外資系日本法人が委託先を選ぶ際のポイントを解説します。
1. 記帳代行とは
記帳代行とは、企業から提供された会計資料をもとに、取引を会計帳簿へ記録する業務を外部へ委託するサービスです。
一般的には、次のような業務が含まれます。
- 領収書・請求書等をもとにした仕訳入力
- 銀行・クレジットカード取引の記帳
- 売掛金・買掛金の計上
- 経費の仕訳入力
- 総勘定元帳や試算表の作成
社内で仕訳入力を行う時間を減らせるため、経理担当者が少ない企業や、日本進出直後で経理人材を採用していない外資系企業にとって有効な選択肢です。ただし、「記帳された」ということと、「月次決算として数字が適切に整理されている」ということは同じではありません。
2. 入力代行と月次レビュー付きアウトソーシングの違い
両者の大きな違いは、会計データを入力した後に、どこまで内容を確認・整理するかです。
| 項目 | 入力中心の記帳代行 | 月次レビュー付きアウトソーシング |
|---|---|---|
| 仕訳入力 | ○ | ○ |
| 証憑との照合 | サービスによる | 通常実施 |
| BS残高の確認 | 対象外の場合あり | 原則として確認 |
| 前月・前年との比較 | 対象外の場合あり | 必要に応じて実施 |
| 未払費用・前払費用等の確認 | 限定的 | 月次決算の一環として検討 |
| 固定資産等の確認 | サービスによる | 必要に応じて確認 |
| 月次試算表のレビュー | 対象外の場合あり | ○ |
| 海外本社向けReporting | 通常は別業務 | 契約範囲により対応 |
| 本社からの問い合わせ | 通常は対象外 | 契約範囲により対応 |
実際のサービス範囲は委託先や契約内容によって異なるため、名称だけでは判断できません。特に確認したいのは、「試算表が納品されるか」ではなく、その試算表についてどのようなレビューが行われているかです。
3. なぜ仕訳入力だけでは足りないことがあるのか
(1)BSの残高は仕訳を入力しただけでは確認できない
例えば、銀行取引をすべて仕訳入力していても、会計帳簿上の預金残高と実際の銀行残高が一致しているとは限りません。売掛金であれば、長期間残っている債権がないか、入金消込が漏れていないかを確認する必要があります。
前払費用、未払費用、仮払金などについても、残高の内容を確認しなければ、過去の金額が帳簿に残り続けることがあります。月次レビューでは、このようにBalance Sheet(貸借対照表)の主要科目について、残高の内容や前月からの動きを確認します。
(2)月次損益が実態を表しているとは限らない
仕訳入力の対象が届いた請求書だけであれば、まだ請求書が到着していない費用は帳簿に反映されません。例えば、3月に利用したサービスの請求書が4月に届いた場合、単純に請求書の日付だけで処理すると、3月の費用が過少となる可能性があります。
月次決算では、必要に応じてAccrual(未払計上・見越計上)などを検討し、収益と費用を適切な期間に反映させます。海外本社が毎月日本法人のP&L(損益計算書)を管理している場合、この違いは特に重要です。
4. 外資系企業では本社報告まで考えて記帳方法を設計する
外資系日本法人の記帳では、日本国内の帳簿だけを完成させればよいとは限りません。海外本社が独自のChart of Accounts(勘定科目体系)を使用している場合、日本側の勘定科目とのMapping(対応付け)が必要になります。さらに、Cost Center(コストセンター)、Department(部門)、Project(プロジェクト)など、本社管理上必要な情報を仕訳単位で付与するケースもあります。
入力時に必要な情報が設定されていなければ、月末になってExcelなどで再分類する作業が発生します。そのため、外資系企業の会計アウトソーシングでは、「どの会計システムへ入力するか」だけでなく、「そのデータを最終的に本社がどのように利用するか」まで確認したうえで記帳方法を設計することが重要です。
5. 月次レビューでは何を確認するのか
レビューの内容は企業によって異なりますが、例えば次のような項目があります。
(1)Balance SheetのReconciliation
銀行残高、売掛金、買掛金、固定資産、未払費用、前払費用、Intercompany Balance(グループ会社間残高)などについて、帳簿残高と根拠資料を照合します。特にBalance Sheetについては、金額が存在する理由を説明できる状態にしておくことがポイントです。
(2)Profit & Lossの変動確認
P&Lについては、前月や前年同月と比較し、金額が大きく変動した科目を確認します。売上が急増している、特定の費用が計上されていないなど、不自然な動きがあれば、仕訳漏れや計上時期を確認します。
(3)本社レポーティングとの整合性確認
海外本社へReporting Package(レポーティングパッケージ)を提出する場合には、日本法人のTrial Balance(試算表)から本社報告値までのつながりも確認します。記帳、月次レビュー、本社レポーティングが別々の担当者・会社に分かれていると、それぞれの数字の差異を日本法人側で説明しなければならないこともあります。
6. 記帳代行を選ぶ際に確認したい5つのポイント
委託先を比較する際には、単価だけではなく、少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。
(1)どこまでが基本料金に含まれるか
仕訳入力だけなのか、銀行照合や月次試算表のレビューまで含まれるのかを確認します。
(2)誰がレビューするのか
入力担当者自身が確認するだけなのか、別の担当者によるReview(レビュー)があるのかによってチェック体制は異なります。
(3)海外本社の会計システムに対応できるか
本社指定のERP(統合基幹業務システム)へ直接入力する場合には、そのシステム上でどこまで対応可能かも確認が必要です。
(4)英語で本社と直接やり取りできるか
日本法人が本社との間で毎回情報を取り次ぐ運用では、アウトソーシングしても社内負担が十分に減らないことがあります。
(5)税務上の判断が必要な場合の体制があるか
記帳業務では、消費税区分や交際費等の取扱いなど、税務上の判断につながる論点が発生することがあります。
7. 記帳代行と税務業務は区別して考える
日本では、会計帳簿の記帳代行等の会計事務そのものは、税理士以外が行うことも可能です。一方、納税者から依頼を受けて行う税務代理、税務書類の作成、税務相談は税理士業務とされ、原則として税理士・税理士法人等の法令上認められた者に限定して認められています。
経理と税務は実務上密接に関係しています。例えば、仕訳時の消費税区分や、ある支出を税務上どのように取り扱うかなど、日常の記帳過程でも税務判断につながる場面があります。そのため、記帳代行を委託する場合には、税務上の判断が必要になった際に税理士・税理士法人へ適切に確認できる体制が整っているかも確認しておきたいポイントです。
8. どこまでアウトソーシングすべきか
すべての企業に月次レビュー付きのサービスが必要とは限りません。社内に経験豊富なFinance Managerがおり、記帳後の残高照合や月次決算、本社報告を社内で行えるのであれば、入力業務だけを外注する方法にも合理性があります。
一方、次のような企業では、入力だけでなく月次レビューまで含めて委託する方が適している場合があります。
- 日本法人に経理専任者がいない
- Country Managerが経理管理を兼務している
- 海外本社が毎月決算を求めている
- 日本側でBS残高をレビューできる担当者がいない
- 本社との英語での会計コミュニケーションまで外部化したい
- 将来的な税務申告や監査を見据えて帳簿品質を安定させたい
「何を外注するか」は、仕訳件数だけではなく、社内にどの経理機能を残すのかを基準に考えると整理しやすくなります。
9. まとめ
記帳代行を選ぶ際には、「1仕訳いくらか」「月額料金はいくらか」だけでは、サービスの違いを十分に比較できません。仕訳入力を外注し、社内のFinance Managerが月次レビューを行う体制もあれば、記帳から残高照合、月次決算、海外本社へのレポーティングまで一連のプロセスを外部へ委託する方法もあります。
外資系日本法人にとって重要なのは、入力作業を減らすこと自体ではなく、日本の帳簿と海外本社が必要とする会計情報を、毎月安定して作成できる体制を構築することです。また、昨今では記帳や月次レビュー以外にも、電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存など、別途対応が必要な業務があることにも留意が必要です。
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「入力作業だけを外注すべきか、月次決算まで任せるべきか分からない」「本社報告を含めて経理業務を見直したい」といった場合には、現在社内で行っている業務と、外部へ委託したい業務を切り分けるところから検討するとよいでしょう。
