商業登記関係 医療法人社団の理事長の再任(重任)の手続きと登記
医療法人社団の理事の登記事項
株式会社や一般社団法人においては役員全員の(少なくとも)氏名が登記事項とされているところ、医療法人社団においては役員につき、代表である理事長の住所及び氏名が登記事項とされています。
医療法人社団の理事長が交代すれば、理事長変更の登記申請をしなければなりません。
また、医療法人社団の理事には任期があるため、この任期が満了する際に再任をした場合も、その再任の登記申請をする必要があります。
この登記は、効力が生じた時から2週間以内にすることが法律上求められていますので、理事長が再任・変更したときは、速やかに登記申請をすることをお勧めします。
≫会社・法人登記の申請期限である2週間はいつまで?期限を過ぎたら登記申請できない?
理事の任期
医療法人社団の理事の任期は、2年を超えることができません(医療法第46条の5-9)。
医療法第46条の5-9
役員の任期は、二年を超えることはできない。ただし、再任を妨げない。
多くの医療法人社団では、定款で理事の任期につき、法律上の最長である2年と定めているかと思います。
設立したばかりの医療法人社団では、設立時役員の任期につき、20●●年●●月●●日までとする、と具体的に定め、決算のタイミングと役員の更新のタイミングを合わせているところもあります。
権利義務役員
医療法人社団の役員の任期が切れている場合、再任や新たな役員の選任等をしていないのであれば、当該役員は権利義務役員となっています(医療法第46の5-3)。
任期が切れている役員が、役員として活動したり、報酬をもらっていたとしても、権利義務役員であるならば問題はありません。
ただし、権利義務役員がいるということは、役員の選任を懈怠している状況ですので、できるだけ早く解消した方がいいでしょう。
医療法第46条の5-3
この法律又は定款若しくは寄附行為で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
理事長の再任手続き
理事の任期が満了するときは、新たに理事を選任(再任含む、以下同じ)する必要があります。
また、理事長たる理事の任期が満了して退任した場合、理事長も退任することになるため、新たに選任された理事によって代表理事を選定することになります。
理事再任手続きの大きな流れとしては、次のとおりです。
- 社員総会を開催する
- 理事会を開催する
- 登記申請をする
社員総会を開催する
医療法人社団の理事は社員総会によって選任しますので、社員総会を開催します(医療法第46条の5-2)。
医療法人社団の社員総会は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の過半数が出席し(医療法第46条の3の3-2)、出席者の議決権の過半数で決議します(医療法第46条の3の3-3)。
監事の任期が切れるタイミングも理事と同じであれば、理事を選任する社員総会において監事も選任します。
医療法人と役員との関係は、委任に関する規定に従うため(医療法第46条の5-4)、選任された理事は、理事に就任するためにはその就任を承諾する必要があります。
理事会を開催する
理事長は理事会によって選出するため(医療法第46条の7-2-3)、理事会を開催し、理事長を選出します。
理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(医療法第46条の7-2-1&一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第95条1)。
理事会の決議方法につき、定款に別段の定めがない医療法人社団では、理事の過半数が出席し、出席した理事の過半数によって理事長を選出することになります。
選出された理事長は、その就任を承諾します。
登記申請をする
理事長は医療法人社団の登記事項とされていますので、理事長の変更登記を管轄法務局へ申請します。
添付書類の一例は次のとおりです。
- 社員総会議事録
- 理事会議事録
- 就任承諾書(理事長たる理事としてのもの及び理事長としてのもの)
- 理事会出席役員の印鑑証明書(変更前の理事長が理事会に出席し、代表印を押印している場合は不要)
- 医師免許証の写し(原本証明付き)
理事及び理事長の予選
医療法人社団においては、理事や理事長につき、任期満了する前に予選をしておくことも少なくありません。
例えば、2020年3月31日に理事全員が任期満了する医療法人社団の場合、2020年3月13日に社員総会を開催して、予め理事を予選するようなケースです。
なお、理事長の予選につき、現在の理事と予選された理事が異なる場合、理事長の予選ができない点に注意が必要です。
ケース2においては、理事予選の効力が発生し予選された理事全員がその就任を承諾した後に、ABDの理事会によって理事長を選出することになります。
理事長の重任日
理事長の重任日は登記事項とされています。
理事の変更前も変更後も理事長がAである場合、、ケース1・ケース2・ケース3ともに、重任日を令和2年4月1日として登記申請をすることになります。
※ケース2・ケース3につき、2020年4月1日に理事会を開催し、理事長を選出することを前提としています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。