商業登記関係 2人で会社を作るときは合同会社よりも株式会社が向いてる点
会社設立と法人形態
会社法が施行されて以降(2006年5月1日以降)、会社を作ることも比較的容易になりました。
合同会社の認知度も高まってきており、1人で会社を設立する人は合同会社という法人形態を選択するケースも増えてきています。
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株式会社と合同会社はそれぞれ特徴があり、必ず株式会社が良い、あるいは合同会社が良いということはありません。
大切なことは、それぞれの法人の特徴を理解した上で、ご自身に合った法人形態を選択することではないでしょうか。
1人会社なら合同会社もお勧め
1人が出資をし、出資をした人だけが役員になる1人会社(出資者=役員で1人)であれば、設立コストの低い合同会社は向いているかもしれません。
特に、個人事業主として今までビジネスをしてきたけれども、
- 取引先が法人としか契約しないと言っている。
- 取引先との関係で、法人口座が必要となった。
- 法人成りをした方が税制面で優遇される程度の売上が立ってきた。
というような理由で、まずは小さくスタートしたい方や、とりあえず法人格が欲しいという方は、合同会社へのニーズが高い印象です。
2人で会社をスタートさせる
次に、2人で会社をスタートさせるケースではどうでしょうか。
1人が1人会社を設立し、もう1人は従業員(雇用)であるなら合同会社でも、株式会社と比べて特に注意する点はないかもしれません。
一方で、2人とも出資をし、2人とも役員になる場合は、合同会社の特徴を理解した上で選択をしないと、大変な思いをする可能性があります。
合同会社特有の気を付けるべき点とはどのようなものでしょうか。
2人で合同会社を設立するときの注意点
合同会社はその特徴から、2人で設立するときは少なくとも次の点に気を付けた方が良いと考えております。
- 合同会社の業務は、社員の過半数をもって決定する。
- 総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。
- 解散には総社員の同意が必要。
業務の意思決定
社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行し(会社法第590条1項)、社員が2人以上ある場合には、合同会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定します(会社法第590条2項)。
何も対策をしていない合同会社では、社員のうち1人が業務について全て反対するようになってしまうと、業務を執行・決定することができなくなってしまいます。
仮に反対していなくても、社員のうち1人と連絡が取れなくなってしまったようなケースでも同様です。
取締役2人の株式会社でも同様の状況に陥り得ますが、最悪の場合、状況によっては取締役を解任することも可能です。
なお、合同会社にも社員を除名する方法はありますが、こちらは訴えをもって行う必要があります(会社法第859条)。
≫合同会社の特定の社員を退社させる方法はどのようなものがあるか
定款の変更
合同会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができます(会社法第637条)。
定款に別段の定めが無いのであれば、社員のうち1人が反対する限り、定款の変更をすることはできません。
仮に反対していなくても、社員のうち1人と連絡が取れなくなってしまった場合は、定款の変更をすることは非常に難しいものとなってしまいます。
定款の変更ができないとなると、事業目的の追加や、別管轄法務局への本店移転、新しい社員を追加することもできません。
株式会社であれば、持株比率にもよりますが、株主1人でも定款の変更を行うことが可能となり得ます。
※取締役の1人と連絡が取れないときに、株主総会の招集を決定をすることができるかどうかは要検討)
解散
合同会社は、総社員の同意によって解散することができます(会社法第641条3号)。
この点については、定款で別段の定めを設けることが許容されていないため、社員のうち1人でも解散に同意をしない者がいると、合同会社を解散することができません。
一方で、株式会社は特別決議によって解散をすることができますので、持株比率によっては1人で解散の決議をすることも可能です。
※取締役の1人が解散に反対するときに、株主総会の招集を決定をすることができるかどうかは要検討)
合同会社の定款を工夫する
2人で合同会社をスタートさせた場合に、2人の関係がこじれてしまったり、一方と連絡が取れなくなってしまうと、その会社を運営し続けることは難しくなってしまいます。
そうならないためにも、信用できる相手と合同会社を作った方がいいです、普段から相手との関係を良好に保つ努力をしてください等は言えるとしても、実際には色々なことが生じてしまうものです。
どのような事態にも備えられる万能の保険はありませんが、合同会社の定款を次のようにしておくと、特定の事態には備えられるかもしれないというものをいくつか挙げてみます。
業務執行社員を1人とする
会社を興す2人のうち1人が、あまり業務に携わる意欲が無い場合は、社員2人のうち1人だけを業務執行社員としておきます。
業務執行社員を定めたときは、業務執行社員が合同会社の業務を執行しますので、業務執行社員たる社員1人だけでその業務を執行することができます。
出資割合に応じて議決権を付与する
社員の出資割合が異なるときは、出資割合に応じて議決権を付与し、議決権に応じて定款変更の決議や業務の執行をできるようにしておきます。
こうすることで、意見が一致しないと前に進めないという事態は避けることが可能となります。
ただし、社員が2人で出資割合が異なるのであれば、どちらか1人の出資割合が大きくなるため、出資割合の大きい1人が全て決められることになります。
また、出資割合の大きい社員と連絡が取れなくなってしまうと、何事も決められなくなってしまう可能性もあります。
定足数を無くした社員総会を設けることにより、そうした事態にも一部対応はできるかもしれません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。