商業登記関係 合同会社の特定の社員を退社させる方法はどのようなものがあるか
合同会社の社員と退社事由
社員のうち1名と連絡が取れなくなってしまったり、問題行為があるために、当該社員(社員Aとします)に退社して欲しいと他の社員が考えるケースがあります。
合同会社の社員の退社事由は法律で定められており、他の社員が勝手に社員Aの社員たる地位を剥奪することはできません。
この場合、社員Aを社員から抜けてもらうにはどのような方法があるでしょうか。
※ここでいう社員とは、従業員のことではなく、出資者としての会社法上の社員のことを指します。
社員Aが退社することに同意している場合
社員Aが退社することに同意している場合は、次の方法が考えられます。
「1」の退社の予告は任意退社と呼ばれているもので、定款に別段の定めがない限り、原則として退社の6ヶ月前までに退社の予告をし、事業年度終了時に退社をするという他の方法に比べて使い勝手が悪いため、使われることはあまりありません(やむを得ない事由がある場合はいつでも退社可)。
総社員の同意によって退社する
社員A以外の社員も同意しているのであれば、総社員の同意によって社員Aに退社してもらうことが可能です。
ここでいう総社員には、社員Aが含まれると解されています。
社員Aが退社するときは、持分の払戻しをする必要があり、合同会社の状況によっては資本金の額の減少手続きもしなければならないことがあります。
持分を譲渡して退社する
社員Aがその持分の全部を譲渡すれば、社員たる地位を失い退社します。
社員を増やしたくないのであれば、既存の社員がこの持分を買い取る(もらう)ことになるでしょう。
持分譲渡の方法であれば、会社の財産の流出はありません(有償であれば譲受人が対価を支払います)。
退社につき社員Aの同意を得られない場合
社員Aが退社につき同意をしない場合や、社員Aと連絡が取れなくなってしまった場合は、上記の方法を使うことはできません。
このような場合には、「除名」という方法が考えられます(会社法第607条1項8号)。
除名であれば、社員Aの同意なく、社員Aを退社させることが可能です。
合同会社の社員の除名
社員Aについて次に掲げる事由があるときは、当該持分会社は、社員A以外の社員の過半数の決議に基づき、訴えをもって対象社員の除名を請求することができます(会社法第859条)。
- 出資の義務を履行しないこと。
- 競業の禁止、利益相反取引の規定に違反したこと。
- 業務を執行するに当たって不正の行為をし、又は業務を執行する権利がないのに業務の執行に関与したこと。
- 持分会社を代表するに当たって不正の行為をし、又は代表権がないのに持分会社を代表して行為をしたこと。
- 上記のほか、重要な義務を尽くさないこと。
裁判所への訴えの提起が必要
除名をするなら必ず裁判所への訴えが必要となり、社員A以外の社員の過半数の決議それだけをもって社員Aを退社させることはできません。
株式会社の株主であれば、仮に1%程度しか持っていない株主と連絡を取れなくなってしまっても、株主名簿上の住所へ招集通知を送れば株主総会の開催や決議を有効に成立させることはできます。
しかし、合同会社の場合は、定款に別段の定めがない限り、総社員の同意が必要な機会というものは少なくありませんので、社員のうち1名と連絡が取れなくなってしまうと運営が大変になることがあります。
除名の訴えをご希望の方には、弁護士(有料相談)を紹介させていただいております。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。