商業登記関係 一般社団法人に理事1名を追加で選任する手続きと登記
一般社団法人の理事の選任
設立後、一般社団法人に理事を追加で1名選任するというケースがあります。
一般社団法人の理事は、社員総会の決議によって選任することができます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「法人法」といいます)第63条1項)。
一般社団法人における理事の選任手続きは、一例として次のような流れで行います。
- 理事の決定(理事会の決議)
- 招集通知の発送
- 社員総会の決議
- 理事の就任承諾
- 登記申請
理事の人数につき定款で上限を定めている場合(例:当法人の理事は、5名以内とする。)、新しく理事を選任することによりこの上限を超えてしまうのであれば、理事を選任する社員総会の第1号議案で定款変更の決議をしましょう。
1.理事の決定(理事会の決議)
理事の過半数の決定(理事会設置法人の場合は理事会の決議)によって、新たに理事Aを選任することの意思決定をします。
同様に、理事Aを選任するための社員総会を開催することにつき、次の事項を決定・決議します(法人法第38条)。
- 社員総会の日時及び場所
- 社員総会の目的である事項があるときは、当該事項
- 社員総会に出席しない社員が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 社員総会に出席しない社員が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
- 上記に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
みなし社員総会の決議で理事の選任をする場合は、理事の過半数の決定等でその旨を決定します。
≫一般社団法人における社員総会の決議省略(みなし決議・書面決議)
2.招集通知の発送
社員総会を開催するため、議決権のある社員全員に対して招集通知を発送します。
招集通知を発送する期間については、次のとおりです(法人法第39条)。
- 理事会非設置法人で、定款で招集期間を定めている場合はその期間
- 書面または電磁的方法によって議決権を行使することができるとする場合は、社員総会の開催の日の2週間前まで
- 上記に当てはまらない法人は、社員総会の開催の日の1週間前まで
なお、書面または電磁的方法によって議決権を行使することができる場合を除き、社員全員の同意があるときは社員の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(法人法第40条)。
みなし社員総会で社員の承認を得る場合は、社員全員に対して議案に関する提案書と同意書を送付します(書面で同意を得る場合)。
3.社員総会の決議
社員総会を開催し、その決議によって理事Aを選任します(法人法第63条1項)。
この選任決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した当該社員の議決権の過半数をもって行います(法人法第49条1項)。
社員が2名の一般社団法人であれば、定款に別段の定めがある場合を除き、社員総会に2名が出席し、2名とも当該議案に賛成する必要があることになります。
みなし社員総会で社員の承認を得る場合は、社員全員から同意書を回収します(書面で同意を得る場合)。
4.理事の就任承諾
一般社団法人と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従いますので(法人法第64条)、選任された理事Aはその就任を承諾することによって理事となります。
理事の就任承諾は口頭でも成立しますが、理事が就任承諾をした記録を残しておくため就任承諾書の記名押印または署名捺印してもらうことが一般的でしょう。
また、この就任承諾書は登記申請の添付書類として使用できます。
登記申請をする
理事が就任を承諾したときから2週間以内に、管轄法務局へその旨の登記申請をします。
登記申請の添付書類の一例は次のとおりです。
理事会を設置している法人かどうかで、理事Aが用意する書類に違いが生じます。
<理事会非設置法人>
- 社員総会議事録
- 理事Aの就任承諾書(理事Aの実印を押印)
- 理事Aの印鑑証明書
<理事会設置法人>
- 社員総会議事録
- 理事Aの就任承諾書
- 理事Aの本人確認証明書
本人確認証明書については、こちらの記事をご確認ください。
登録免許税
理事就任に関する登記申請の登録免許税は1万円です。
現在いる理事の任期を確認しておく
理事の任期は、定款でその任期を短縮していない場合、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時までとなっています(法人法第66条)。
例えば、理事Xが1名の一般社団法人において、理事Aを追加で選任するケースがあったとします。
このときに、理事Xの任期が既に切れており、理事Xが権利義務理事となっている場合はどうなるでしょうか。
この場合、理事Aが選任されその就任を承諾した瞬間に、理事Xが任期満了により退任してしまうことになります(結果として、理事がAのみの一般社団法人になってしまいます)。
理事Xと理事Aの理事2名体制を考えているのであれば、理事Xの任期を確認し、もし理事Xの任期が切れている場合は、理事Xの選任決議(及び代表理事の選定手続き)も同時に行いましょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。