商業登記関係 相続関係 株式会社、有限会社の株式を相続したときに行う手続き
株式も相続財産
人が亡くなられたときは、その人が所有していた財産はその相続人に相続されます。
預貯金、不動産、自動車などと同様に、株式も相続財産であり、相続人に相続されることになります。
相続人が1人であれば、株式を含めた全ての相続財産がその相続人に承継されるので、株式と他の財産に大きな違いがなく相続手続きもスムーズに行うことができます。
株主に相続人が複数いる場合
相続人が複数人いる場合は、不動産や預貯金などの相続財産と株式はその相続手続きが異なります。
株式の特徴として、株式は相続により法定相続分に応じて各相続人に当然に承継されません。相続人の準共有状態になるとされており、遺産分割によってこの状態を解消する必要があります。
被相続人がA株式会社の株式100株を所有していて、相続人が被相続人の子2名の場合、その2名が50株ずつ承継するわけではありません。
株式の相続手続き
遺産分割協議
相続された株式の準共有状態の解消には、相続人間で遺産分割協議をし、誰が当該株式を相続するのか決めなくてはなりません。
会社へ名義書換請求
当該株式を承継する相続人が決まれば、当該相続人がその旨を会社に通知し、株主名簿の名義変更の手続きを行います。
- 株主名簿の名義書換請求書
- 株主名簿上の株主が死亡したことを証する書面(除籍謄本など)
- 自らが株式を相続により取得したことを証する書面(戸籍謄本や遺産分割協議書など)
株券発行会社においては、株式を相続した相続人が株券を会社に提示することにより、株主名簿の名義書換請求を単独で行うことができるとされています。
株主名簿の名義変更を済ませた後は、以降当該相続人が株主として権利(議決権の行使などです)を行使していくことになります。
準共有状態の株式の権利行使
それでは遺産分割が終わる前の準共有状態の株式につき権利行使を行うにはどのような方法があるかというと、相続人(共有者)の中から株式の権利を行使する人を1人を定め、会社にその旨を通知し、その定められた権利行使者が遺産分割が終了するまで、株主としての権利行使をしていくことになります(会社法第106条)。
(共有者による権利の行使)
会社法第106条株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
相続人等に対する売渡請求手続き
会社にとって好ましくない者が株主とならないように株式の譲渡制限に関する規定を定款に設けている会社は多いです。
≫株式の譲渡制限の定め
しかしながら、当該規定は株式の相続には適用されないため、当該規定をもって相続人への株式の移転を防ぐことはできません。
そのようなニーズに応える方法として、相続人等に対する売渡請求という制度があります。
相続人等に対する売渡請求とは
相続人等に対する売渡請求とは、相続を原因として株式を取得した者に対して、当該株式を当該会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めている会社が、相続人から当該株式を取得することができる制度です(会社法第174条)。
(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
会社法第174条
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
相続人等に対する売渡請求行使の要件
相続人等に対する売渡請求を行使するときは、次の要件を満たしている必要があります。
- 定款に相続人等に対する売渡請求ができる旨の規定があること
- 譲渡制限株式を発行していること
- 相続等があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議で売渡請求する旨承認した上で当該相続人に請求すること
- 買い取る金額が剰余金の分配可能額を超えないこと
やはり事前の対策が重要
株主が社長1人、あるいは社長が3分の2以上取得しているような会社において、法定相続人が複数いるような場合は、社長に相続がいつ発生しても会社が継続して事業を行っていけるよう、社長が生きているうちに対策を取っておくことは非常に大事なことです。
何も対策を取らずに相続が発生してしまい、相続人同士が揉めてしまい解決まで何年もかかってしまえば、その間に株主総会において何も決議ができないという状況が発生してしまうかもしれません。
※本記事は非公開会社を対象としております。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。