商業登記関係 相談事例 【相談事例】既存の取締役の任期が満了しているのに取締役を1名追加する
取締役の任期と任期満了
株式会社の取締役には任期があり、任期が満了すると取締役は退任します。
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり、非公開会社であれば定款によって2年の部分を10年まで伸長することができます(会社法第322条1項、2項)。
なお、特例有限会社の取締役には、定款に別段の定めがない限り、任期はありません。
取締役の任期満了と選任
取締役は任期が満了したときであっても、当該取締役が退任することで定款あるいは会社法で定めた取締役の員数を満たさなくなる場合は、新たに取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有する(会社法第346条1項)。
≫株式会社の権利義務取締役、権利義務監査役とは何でしょうか。
ご相談いただいた事例は、取締役はAの1名という非公開会社である株式会社(「株式会社X)とします)で、新たにBを取締役に選任したいという内容でした。
変更前、(希望する)変更後の役員構成は次のとおりです。
手続き的には、株主総会の決議によってBを取締役に選任し、株式会社Xは取締役が2名以上いるときは取締役の互選で代表取締役を1名選定すると定款に定められていましたので、取締役の互選でAを代表取締役に選定することになるでしょう。
取締役はBのみ
さて、株式会社Xの定款を見てみると、取締役の任期が2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとなっており、取締役Aの任期が切れています。
取締役Aは権利義務取締役となっており、新たに取締役が就任すると任期満了により退任することになってしまいます。
そうすると、Bが取締役に就任した瞬間に、株式会社Xの役員構成は次のとおりとなります。
登記申請は通ってしまう
取締役Aの任期が満了しているのであれば、取締役Aの退任登記も一緒に申請しないと法務局が登記を通さないと考える方もいるかもしれませんが、その可能性は低いといえます。
登記官からは、株式会社Xの取締役の任期が分からないからです(仮に取締役Aの就任日から11年以上経過していれば、指摘してくれる可能性もあるでしょうか)。
そのため、取締役Bの就任登記は、申請書や添付書類に不備が無ければ通ってしまいます。
そのことにより、会社法上は取締役Bのみの株式会社であるにも関わらず、登記簿上は取締役AB、代表取締役Aという齟齬が生じることになります。
Aも取締役に選任する
株式会社Xとしては取締役AB、代表取締役Aという役員構成の会社にしたかったので、そうするためにはどうすれば良かったのでしょうか。
取締役Aの任期が切れているので、取締役Bを選任する株主総会において、取締役Aも一緒に選任することにより解決することができます。
株主総会で取締役A及び取締役Bを選任し、取締役の互選で代表取締役Aを選定することで、無事に相談者のニーズを満たすことができました。
全体を見て最適な手続きを
Bを取締役に追加するのだから、取締役の選任方法やその登記の方法を調べて実行すると、結果としてAに代表取締役としての権限が全く無くなってしまった、ということが生じ得ます。
もし、定款に「当会社の取締役は1名とする。」と定められていれば、当該規定を変更しない限り、取締役が2名となれば定款違反となってしまいます。
取締役を1名追加するだけであっても、取締役に関する会社法や定款をチェックした上で手続きを行うことをお勧めします。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。