商業登記関係 相談事例 【相談事例】1期目の利益を、期中に資本金に組み入れてしまった。
誤ってその他利益剰余金を資本金に
その他利益剰余金を間違って資本金に組み入れてしまった。
資本金に組み入れる額を間違った、貸借対照表上のその他利益剰余金の額が間違っていたので実在しないその他利益剰余金の額まで資本金に組み入れてしまったという理由が考えられます。
そして今回のご相談は、期中の利益を資本金に組み入れてしまったというものです。
1期目の利益を、1期の途中で資本金に組み入れることができるか
株主総会の決議により、その他利益剰余金の一部または全部を資本金に組み入れることができます。
その他利益剰余金を資本金に組み入れることにより、資本金の額を増やすことが可能です。
しかし、資本金に組み入れることのできるその他利益剰余金は、期末後の定時株主総会において承認された貸借対照表上のその他利益剰余金に限られます。
そのため、1期目の期中においては利益が上がったとしても、それを資本金に組み入れることができません。
間違った事実の登記申請が受理されるのか
法律上間違っているのに法務局がその登記申請を受理していることは、法務局が審査を間違ったのでしょうか。
実はそうではありません。
法務局は提出された書面(と登記簿)だけで事実関係を把握します。
多くの登記申請では、その事実が適法かどうか登記官が確認できる書類の提出を求められますが、剰余金を資本金に組み入れる登記においては決算期を確認できる書類(定款等)を法務局へは提出しません。
つまり、一定の登記申請では申請者側(会社側)において、その行為の適法性を検討しなければならないということです。
設立日から1年経過していなくても…
例えば、会社設立日が平成29年5月1日である3月末決済の株式会社があったとします。
この会社が、平成29年6月1日を効力発生日とするその他利益剰余金を資本金へ組み入れる登記申請を行ったときに、その登記は受理されるのでしょうか。
上記のとおり1期目の利益はその期中では資本金へ組み入れることはできませんが、申請書や添付書類に不備がなければその登記申請は受理されるでしょう。
平成29年5月中に1期目の事業年度を終え、決算承認がされている可能性があり、そして事業年度がいつかどうかや決算承認が本当にされているのかどうかは登記官の審査対象ではないためです。
(事業年度の記載された定款や、決算承認をした定時株主総会議事録は添付書類ではありません。)
資本金へ組み入れるその他利益剰余金が、確定した貸借対照表に記載されたその他利益剰余金であるかどうかは会社の自己申告によるものであり、登記官は「このその他利益剰余金は定時株主総会で承認されたものですか?」等のように丁寧に聞かれるわけではないのです。
資本金の額の変更の登記を抹消する
誤った内容の登記申請が受理され、それが登記簿に記録されてしまっているときは、当該登記を抹消して間違った状態を解消しなくてはなりません。
具体的には、利益剰余金を資本金に組み入れた登記を抹消する登記申請を管轄法務局に行います。
この抹消登記には登録免許税が2万円かかってしまいます。
さらに、支店の登記にも抹消登記が必要なときは、それぞれの支店の管轄法務局に6千円の登録免許税が発生します。
もちろん、利益剰余金を資本金に組み入れた登記申請の際に納めた登録免許税(増加する資本金の額×1000分の7)は戻ってきません。
登記申請が受理されることと適法かは必ずしもイコールではない
上記のように登記申請が受理されれば、法務局の審査に通ったのだから法律上間違っていないと考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。
例えば、取締役や監査役の任期も典型的な例です。
役員の就任期間が10年以上経過しているケースを除き、登記官は役員が任期満了により退任したことを、定時株主総会議事録の記載から判断をします。
もし会社側で任期の計算を間違えていたときは、役員の就任期間が10年以上経過しているケースを除き、登記官はそれを知る術がありません。
司法書士等の代理人に依頼するのではなく本人が登記申請を行うときは、申請書の作成の仕方や添付書類の作り方だけではなく、そのような実体的な点にも注意をする必要があります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。