商業登記関係 種類株式において剰余金の優先配当額を毎年変更できるか
種類株式と剰余金の配当
株式会社は、剰余金の配当について内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができます(会社法第108条1項1号)。
新たに、剰余金の配当において普通株式に優先する種類株式(ここでは「A種優先株式」という名称とします)を定款に定める場合において、単にA種優先株式が優先されるという内容だけでなく、具体的にどのくらい優先されるかについても決定します。
優先額の一般的な定め方
A種優先株式が剰余金の配当においてどのくらい優先されるかの定め方は、固定金額か払込金額に対する割合であることが多いです。
※剰余金の配当は種類株式の内容の冒頭に来ることが多く、A種優先株主等の定義・説明を入れることがほとんどですが、ここでは省略しています。以下、同じ。
内容の要項だけを定める
剰余金の配当について内容の異なる株式を設けるときは、その全部又は一部につき、当該種類の株式を初めて発行する時までに株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会)の決議によって定める旨を定款で定めることができます(会社法第108条3項)。
この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければなりません。
優先する剰余金の配当額を毎年変更できるか
A種優先株式の剰余金の優先配当額が1株につき500円だった場合、それを昨年は売上が好調だったため500円を優先して配当できたが、今年は売上が低迷しているので優先配当額を300円とすることはできるでしょうか。
残念ながら、剰余金の優先配当額が異なる種類株式は別の種類株式となってしまいます。
優先配当額が1株につき500円であるA種優先株式においては、毎年その優先配当額を会社が変更して配当することはできません。
一方で、A種優先株式を発行する時点で、配当基準日が2021年●月末日以前に終了する事業年度に属する場合は500円、2021年■月以降2024年●月末日以前に終了する事業年度に属する場合は300円、2024年■月以降は700円とするような定めは、その定め方が明確なので優先配当額として定めることができそうです。
内容の要綱を定款で定めた場合はどうか
会社法第108条3項に基づき、株主総会でその内容の要綱を定款で定めた場合はどうでしょうか。
この場合も、結局はA種優先株式を発行する時までにその内容を定めなければならないため結論は変わりません。
定款に「A種優先株式1株につき500円を上限として、当該A種優先株式の発行に際して取締役会の決議で定める額の金銭による剰余金を配当する。」となっている場合でも、毎年優先配当額を取締役会の決議で決めることができるわけではないためです。
A種優先株式を発行する時までに、A種優先配当額が1株につき200円なのか350円なのか500円なのか決まります(決めなければなりません)。
定款変更をする
剰余金の優先配当額は定款の記載事項であり、種類株式の内容であるため、株主総会の決議によって変更することはできます。
ただし、全体の株主総会だけではなく、原則として各種類の株主総会の決議も必要であり、その変更登記もしなければなりません。
また、一度剰余金の優先配当額を下げた後に、今度は上げる場合、劣後する種類株主の承諾が得られるとも限りません。
そのため、優先配当額を(その都度)変更するために定款変更を繰り返している会社は少ないのではないでしょうか。
上場会社の例
優先配当額を変えた種類株式を取締役会の決議で何回も発行できるよう、会社法第108条3項に基づき、内容の要綱だけを数種類、名称を変えて株主総会の決議で定款に設けている金融機関もあります。
1株につき、その払込金額(1株につき●●円を上限とする。以下第●回乃至第■回 第▲種優先株式につき同じ)に、発行に先立って取締役会の決議をもって定める方法によって決定される配当率(年10%を上限とする)を乗じて算出した額を、金銭にて支払う。
※短くするために修正しています。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。