商業登記関係 相談事例 【相談事例】共同創業者の脱退と、脱退にともなう出資金の返還
共同創業者と出資
例えば2名(AB)で株式会社X(普通株式のみ発行)を作り、ABともに取締役としてビジネスを行ってきたけれども、方向性の違いや他のビジネスをする等の理由からBが会社から抜けることがあります。
このときに、Bが株式を持っていなければ(出資をしていなければ)、Bに取締役を辞任してもらえば済むかもしれません。
しかし、ABの仲が悪くなりBが嫌がらせの意味で取締役を辞任しない場合は、取締役Bを解任するかどうか検討することになるでしょう。
ところで、Bが出資をしていて、株式会社Xの株式を保有している場合は、その株式をどうなるでしょうか。
脱退者が保有する株式への対応
Bが株式会社Xの株式を保有している場合、当該株式の行方は、次のようになるでしょうか。
- Bが保有したまま。
- 株式会社Xが買い取る。
- A又は第三者が買い取る。
Bが株式を保有したまま
Bが株式を手放そうとしなければ、取締役を辞任したとしても、原則としてBは株主のままで居続けます。
株式も個人の財産なので、他人が強制的に取り上げることは、基本的にはできません。
Bの保有する株式が少数であればキャッシュ・アウトをすることができるかもしれませんが、AとBが50%:50%で保有しているような場合は、Bが株式を手放そうとしない限り、回収することは難しいでしょう。
Bが株式を50%以上保有している場合、Bが反対すると株主総会の議案を通すことはできなくなりますので、会社を前に進めることができなくなる可能性があります。
会社が株式を買い取る
会社に出資をしたのだから、会社が株式を回収して返金するべきだ、という考えはもしかしたら自然なものかもしれません。
なお、会社は借金であれば返済する義務がありますが、出資は返還する義務はありません。
会社法の手続きを踏めば、会社は、株主からその発行済株式を取得することができます。
よくある間違いとして、会社とBが株式譲渡契約書を締結すれば済むという誤解がありますが、自己株式の取得は、無償で取得する場合を除き、株主総会の決議等の手続きが必要となります。
自己株式の取得と分配可能額
発行会社が株式を買い取るときは、分配可能額(会社法第461条1項)が無いと買い取ることができません。なお、無償であれば分配可能額が無くても会社が発行済株式を回収することはできます。
分配可能額は、原則として「その他利益剰余金+その他資本剰余金-自己株式」で求めることができますが、詳細は顧問税理士にご確認ください。
剰余金が豊富な会社であれば会社が買い取ることもできますが、そうでない場合は、会社がその発行済株式を買い取ることができませんので、他の人が買い取る方法を検討します。
また、剰余金があったとしても、株式の買取価格につき会社とBで調整がつかなければ、会社が発行済株式を買い取ることができません。
分配可能額と減資
自己株式の取得をしたいのに前期末の貸借対照表上のその他利益剰余金、その他資本剰余金が買取価格に足りないときは、資本金の額の減少を検討します。
減少した資本金(及び/又は資本準備金)を資本剰余金に振り替えることにより、分配可能額を増やすことができるためです。
自己株式の取得手続き
発行会社が株主から株式を取得する手続きは、会社と株主の株式譲渡契約で行うことはできず、その手続きが会社法に定められています。
実行するときは後で株式の所属について紛争とならないよう、分配可能額をご確認し、かつ、会社法に則った手続きをされるのがよろしいかと思います。
A又は第三者が買い取る
Bが脱退にともない株式を手放したいのであれば、発行会社が買い取ることも考えられますが、発行会社に分配可能額が無い場合、AがBの株式を買い取るケースが多いでしょう。
実務的にも、Aが買い取ってBが離脱するケースをよく見かけます。
もし、Bに代わりCが新たに会社にジョインする場合は、CがBから株式を買い取ることも考えられます。
会社が株式を買い取る場合同様に、この場合も、株式の譲渡価格をどうするかがポイントになるでしょう。
後日株式を渡した渡してないで揉めないよう、株式の譲渡契約書や、株式の譲渡承認に関する手続き、書類はしっかりと整えておきましょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。