商業登記関係 相談事例 【相談事例】株主に出資分を払い戻すときは、資本金を減らさないとダメですか?
出資の払い戻し
ABの2名で50万円ずつ出資をして設立した株式会社(資本金100万円)において、設立から数年経過した後、Aが出資した分を返して欲しいと言ってきたとします。
会社側からすると、一定の場合を除き、この出資金の返還請求に応じる義務はありません。
一定の場合とは、例えば吸収合併をするときは吸収合併に反対する株主には株式買取請求権がありますので、この株式買取請求権を行使されると会社は株式を買い取る義務は生じますが、このようなケースはそう多くは起こりません。
株主から株式を買い取る義務はない一方で、Aと会社の合意によって、会社がAから株式を回収する代わりにその対価をAに支払い、Aに株主ではなくなってもらうことは可能です。
自己株式の取得
会社がAから株式を取得し、その対価を会社がAに交付する手続きは、自己株式の取得手続きの一つとして整理されています。
会社とAの株式売買契約によって会社がAから株式を取得することができるわけではありません。
会社法に則った自己株式の取得手続きを踏む必要がありますのでご注意ください。
自己株式の取得と資本金
設立時に100万円が出資され、100株を交付した株式会社(1株1万円)では、何年経過しようが1株1万円の価値があるように思われがちですがそうではありません。
株式の価格は、会社の儲けが大きくなれば、その価値も上がることが一般的です。
Aから1株いくらで買い取れば良いかは、株価の算定方法も色々ありますので顧問税理士の方にご相談ください。
ところで、Aから50株を買い取る場合、一見資本金が100万円から50万円になりそうに見えますがそうではありません。
資本金の額と株式が保有している株式数は必ずしも連動していませんので、50株を会社が保有しても(Aに対価を支払っても)資本金の額は変動しません。
自己株式の消却と資本金
会社が自己株式を取得した後、取締役の決定(取締役会の決議)によって消却した場合はどうでしょうか。
発行済株式数と資本金の額は必ずしも連動しませんので、自己株式を消却しても自動的に資本金の額は減少しません。
資本金100万円(発行済株式数100株)から、自己株式を50株消却したとしても、資本金100万円(発行済株式数50株)となるだけです(資本剰余金の額は変動します)。
もし、資本金の額を減少させたいのであれば、別途減資の手続きを取る必要があります(わざわざ自己株式の消却と同時に減資をする会社は少ないのではないでしょうか)。
自己株式の取得と分配可能額
Aから会社が株式を買い取るときは、分配可能額に注意が必要です。
自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとされているためです(会社法第461条1項)。
小規模な会社の多くは分配可能額=剰余金の額となりそうですが、そのような会社の場合、剰余金の額がマイナスである状態ではAから株式を買い取ることができません。
自己株式の取得と減資
Aから株式を買い取りたいのに、買い取るための分配可能額が不足していた場合は、剰余金の額を増やすことを考えます。
剰余金の額を増加させる方法の一つとして、資本金の額や準備金の額を減少する方法があります。
≫株式会社の資本金の額の減少(減資)手続きと登記
≫株式会社の資本準備金、利益準備金の額を減少する手続き
資本金の額や準備金の額を減少し、減少させた額を資本剰余金に振り分けることによって剰余金の額を増やし、Aから株式を買い取ることが可能となるかもしれません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。