商業登記関係 一般社団法人の代表理事を選定したことを証する書面と理事・監事の印鑑証明書
代表理事の選定と登記
代表理事の住所、氏名は登記事項ですので、これらに変更が生じたときはその旨の登記申請を行います。
代表理事の就任(重任含む、以下同じ)による変更の登記の申請書には、代表理事を選定したことを証するものとして次のいずれかの書面を添付しなければなりません(一般社団法人等登記規則第3条で準用する商業登記規則第61条6項)。
- 社員総会議事録
- 理事による互選を証する書面
- 理事会議事録
これらの書面に押す印鑑は商業登記規則により指定されており、その内容は次のとおりです。
1. 社員総会議事録
社員総会によって代表理事を選定したときは、議長及び出席した理事が社員総会議事録に押印し、当該押印は個人実印で行います。
ただし、議事録に変更前の代表理事が登記所に提出している印鑑(=法人実印)を押したときはこの限りではありませんので、代表理事が再任されるとき等は法人実印を押印することで他の理事は認印で済ませることが多いかもしれません。
また、変更前の代表理事が法人実印を押印するのであれば、定款に別段の定めがない限り、議事録作成者たる代表理事が法人実印を押せば済みます。
理事会を設置している一般社団法人が代表理事の選定を証する書面として社員総会議事録を用いるときは、代表理事を社員総会においても選定することができる旨の定めのある定款も添付します。
なお、定款に別段の定めがない限り、法律上の社員総会議事録への押印義務はありませんので、代表理事を選定した議案のない社員総会議事録は押印しなくても問題ないとされています(多くの法人では、少なくとも議事録作成者が押印又は電子署名しています)。
2. 理事による互選を証する書面
理事の互選によって代表理事を選定したときは、その互選を証する書面に理事全員が押印し、当該押印は個人実印で行います。
ただし、互選を証する書面に変更前の代表理事が法人実印を押したときはこの限りではありませんので、代表理事が再任されるときは等は法人実印を押印することで他の理事は認印で済ませることが多いかもしれません。
互選を証する書面は、紙1枚に理事全員が押印する方法や、理事1名につき紙1枚に押印する方法があります。書面のタイトルは「理事の互選書」でも「理事決定書」でも問題ありません。
法人実印を押印する限り、他の理事は署名又は認印の押印でも足りますが、社員総会議事録と異なり、理事全員が署名又は認印の押印をする必要があります。
理事会を設置していない一般社団法人が、代表理事の選定を証する書面として理事の互選書(理事決定書)を用いるときは、代表理事を理事の互選によって選定する旨の定めのある定款も添付します。
3-1. 理事会議事録(実開催)
実開催の理事会の決議によって代表理事を選定したときは、出席した理事及び監事が理事会議事録に押印し、当該押印は個人実印で行います。
ただし、理事会議事録に変更前の代表理事が法人実印を押したときはこの限りではありませんので、代表理事が再任されるときは等は法人実印を押印することで他の理事及び監事は認印で済ませることが多いかもしれません。
ところで、一般社団法人は株式会社と異なり、定款に定めることで理事会議事録に署名又は記名押印する理事を当該理事会に出席した代表理事に限定することもできます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第95条3項)。
上記定款の定めを置いている一般社団法人は、出席した代表理事及び監事が理事会議事録に個人実印を押印すれば足ります(変更前の代表理事が法人実印を押印している場合は他の代表理事及び監事は認印可)。
登記申請の添付書類として理事会議事録の他に、上記定めを置いていることが分かる定款の添付も求められます。
3-2. 理事会議事録(みなし決議)
一般社団法人は、定款に定めを置くことによって理事会のみなし決議を行うことができます。みなし決議を行った場合の理事会議事録には、議事録作成者が押印します。
≫一般社団法人における理事会の決議省略(みなし決議・書面決議)
理事会のみなし決議によって代表理事を選定したときは、理事会議事録に理事全員が個人実印を押印するか、理事会の決議時事項に同意した書面に理事全員が個人実印を押印します。
ただし、理事会議事録に変更前の代表理事が法人実印を押したときはこの限りではありませんので、代表理事が再任されるときは等は議事録作成者たる代表理事が法人実印を押すことで、他の理事及び監事の記名押印をしないで済ませることが多いでしょう。
登記申請の添付書類として理事会議事録の他に、みなし決議を行うことができる旨の定めを置いていることが分かる定款の添付も求められます。
変更前の代表理事が法人実印を押す場合
上記のとおり変更前の代表理事が法人実印を押すことで、他の理事又は監事の個人実印での押印+印鑑証明書の添付を省略することができますが、誰が法人実印を押してもこの規定が適用されるわけではありません。
前任の代表理事が理事会等に参加権限をもって参加し、かつ、当該代表理事が押印する必要があります。
理事ABC、監事D、代表理事Aの一般社団法人が定時社員総会のタイミングで理事BCE、監事A、代表理事Bとなる場合、代表理事Bを選定する理事会にAが出席し、理事会議事録にAが法人実印を押せばBCDは認印でも問題ありません(代表理事Bの就任承諾を証する書面として援用する場合はBは個人実印)。
このときのAの役職は監事であり、監事Aとして(Aが代表理事の時に届け出ていた)法人実印を押せば足ります。
上記の例で、代表理事Aが任期満了により理事を退任し、理事にも監事にも選任されないケースでは、次の代表理事を選定する理事会議事録につき、原則として出席理事及び監事の個人実印が必須になるでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。