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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

募集株式の発行において、払込期日に一部の入金しかなかった場合

募集株式の発行と期日に払込み

金銭出資による募集株式の発行をするときは、募集株式の引受人は、払込期日又は払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(会社法第208条1項)。

募集株式の引受人は、出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより募集株式の株主となる権利を失います(会社法第208条1項)。

募集株式の発行手続きにおいて、発行会社の決議や投資家との契約が済み、最後の最後に出資額の入金がされず募集株式の発行が成立しないということもあり得ます。

一部の引受人が履行しない、あるいは引受人から引受額の一部しか入金されなかった場合はどうなるでしょうか。

以下、出資の内容は現物出資ではなく金銭出資による方法を前提としています。

出資の履行が(一部)行われなかったパターン

募集株式の発行の手続きにつき、申込み(会社法第203条)+割当て(会社法第204条)方式総数引受契約(会社法第205条)方式で分け、また、出資の履行につき、一部の引受人から行われなかった場合払込金額の一部しか行われなかった場合に分けてみます。

引受人の一部が出資の履行をしない
払込金額の一部が払い込まれない
申込み+割当て方式
総数引受契約方式

発行会社X(発行済株式数10,000株、資本金100万円、資本準備金0円)、投資家ABCの3名(3社)、1株と引換えに払い込む金銭の額10,000円、投資家1名につき10,000,000円出資、トータル3,000株を新規発行するものとします。

株式会社Xの変更前のステータス

発行済株式数 :10,000株
資本金の額  :1,000,000円
資本準備金の額:0円
①申込み+割当て方式で、引受人の一部が出資をしなかった場合

ABCが申込み、ABCに対して株式を1,000株ずつ割当てたところ、払込期日又は払込期間の最終日までにCが出資の履行をしなかった場合、Cは株主となる権利を失います。

そのため、ABに対して1,000株ずつ計2,000株発行し、20,000,000円につき株主総会で決定した募集事項に従い資本金と資本準備金に振り分けます。

出資額の2分の1を資本金に計上する場合、募集株式の発行後の株式会社Xの発行済株式数等は次のとおりです。

発行済株式数 :12,000株
資本金の額  :11,000,000円
資本準備金の額:10,000,000円

ところで、株主総会で決定する募集事項の「増加する資本金及び資本準備金に関する事項(会社法第199条1項5号)」につき、増加する資本金の額及び資本準備金の額をそれぞれ15,000,000円と固定額で決定しているときは、一部の引受人が失権すると整合性が取れなくなってしまいます。

それを避けるためには、増加する資本金の額及び資本準備金を「1株あたりそれぞれ5,000円」とするか、「増加する資本金の額は、会社計算規則第14条第1項に従い算出される資本金等増加限度額の2分の1の金額とする(計算の結果1円未満の端数が生じたときは、その端数を切り上げる)。また、増加する資本準備金の額は、当該資本金等増加限度額から上記の増加する資本金の額を減じた額とする。」としておくことが無難です。

Cに振込が遅れて払込期日の翌日に入金があった場合は、改めて株主総会の決議を行い、Cにつき預り金をDESすることが考えられます。

≫募集株式の発行において期日後の払込みによる失権と返還請求権の現物出資(DES)

②申込み+割当て方式で、払込金額の一部しか振り込まれなかった場合

ABCが申込み、ABCに対して株式を1,000株ずつ割当てたところ、払込期日又は払込期間の最終日までに、ABが引受額の満額を、Cが引受額の一部である9,000,000円しか振り込まなかった場合はどうなるでしょうか。

会社法第208条1項は「それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければならない」とありますが、募集株式の払込金額は「募集株式1株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額」をいいますので(会社法第199条1項2号)、上記Cには900株付与されるものと考えられます。

発行済株式数 :12,900株
資本金の額  :11,450,000円
資本準備金の額:10,450,000円

上記のように意図的に、あるいは引受額を誤認していたケースは少ないとしても、振込手数料を差し引いて振り込んでしまったり、海外からの送金で為替や手数料の関係で、引き受けた株式の払込金額に不足が生じるケースは十分にあり得ます。

この場合、債務不履行の問題はここではさておき、原則として払込金額に相当する株式は発行され、端数は預り金となりますが、当事者の意思として出資ではなく預り金ということであれば、後日改めて株主総会の決議をして預り金をDESすることはあるかと思います。

③総数引受契約方式で、引受人の一部が出資をしなかった場合

上記①と同様です。

会社法第205条1項の要件を満たしていることを明示するために、総数を引き受けたことを証する書面として、出資の履行をしなかったCとの総数引受契約書も登記申請の添付書類として提出することが無難でしょうか。

④総数引受契約方式で、払込金額の一部しか振り込まれなかった場合

上記②と同様です。


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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