商業登記関係 種類株式発行会社における株式分割の手続きと登記
種類株式発行会社と株式分割
株式会社は、株式の分割をすることができます(会社法第183条1項)。
種類株式を用いて資金調達をする際に、資本政策の一環として1株の価額を下げる等を目的として株式分割が行われることがあります。
シリーズAの前に株式分割をしてA種優先株式やB種優先株式、新株予約権を発行するのであれば、普通株式のみ発行している状態での株式分割となります。
一方で、種類株式を発行した後も株式分割をすることはできるため、シリーズAの後、シリーズBまでの間に株式分割が行われるケースもあります。
普通株式のみ発行している株式会社の株式分割に比べて、種類株式を発行している株式会社(現に2以上の種類の株式を発行している株式会社、以下同じ)の株式分割には手続き上いくつかの注意点があります。
株式分割の内容
株式の分割をしようとするときは、その都度、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によって、次に掲げる事項を定めます(会社法第183条2項)。
- 株式の分割により増加する株式の総数の株式の分割前の発行済株式(種類株式発行会社にあっては、下記3の種類の発行済株式)の総数に対する割合及び当該株式の分割に係る基準日
- 株式の分割がその効力を生ずる日
- 株式会社が種類株式発行会社である場合には、分割する株式の種類
種類株式を発行している株式会社においては、どの種類の株式(あるいは全ての種類の株式)を1株につき何株へ分割するかを決定します。
多くのケースでは、全ての種類の株式について同一割合で株式分割をすることになります。普通株式を1株につき100株に分割し、A種優先株式も同時に1株につき100株に分割するイメージです。
なお、シリーズA後の定款には、普通株式を株式分割するときはA種優先株式も同一の割合で株式分割をする旨が記載されることがほとんどでしょう。
株式分割に係る基準日については、基準日公告を行う会社もあるかと思いますが、非公開会社で株式分割につき株主全員の承諾を得られているようなケースにおいては、定款に時限的に基準日を定めて株式分割を進めることが多いでしょうか。
発行可能株式総数と発行可能種類株式総数
株式分割をしたときに発行済株式数・発行済種類株式数が発行可能株式総数・発行可能種類株式総数を超えることが想定されるときは、発行可能株式総数・発行可能種類株式総数の変更も同時あるいは株式分割に先立って行います。
普通株式のみを発行している株式会社においては、株式分割の割合と同じ割合の範囲内であれば、株主総会の決議によらず発行可能株式総数を変更することができますが、種類株式を発行している株式会社はこれができません(会社法第184条2項)。
そのため、種類株式を発行している株式会社が発行可能株式総数・発行可能種類株式総数を増加するときは、変更株主総会の決議は必須です。
なお、普通株式に係る発行可能種類株式総数(及び発行可能株式総数)は、その目的が普通株式である新株予約権の行使や種類株式の取得請求権の行使(株式公開が決定された後等の特定の状況を除き行使する種類株主は基本いません)がされたときのための枠を残すケースが多いでしょうか。
株式分割の決議機関
株式の分割の決議機関は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)です(会社法第183条2項)。
発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加については、株主総会の決議+種類株主総会(普通・A種優先)の決議が求められます(会社法第322条1項1号)。
また、株式の分割について、種類株主総会(普通・A種優先)の決議が求められます(会社法第322条1項2号)。こちらは、種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めている場合は、当該決議は不要です(会社法第322条2項)。
なお、会社法第322条1項に係る種類株主総会の決議は、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときに求められますので、損害を及ぼすおそれがないのであれば不要ではありますが、損害を及ぼすおそれ少しでもあれば株式分割等の効力が生じないリスクを考えると、種類株主総会の決議もしておくことが無難でしょうか。
種類株式の調整式
種類株式の内容として、株式分割をしたときの調整式が組まれているケースは多いでしょう。
一例として株式分割をしたときに変更が生じる箇所は、1株あたりの剰余金の優先分配額、1株あたりの残余財産の優先分配額、あるいは取得請求権や取得条項が発動したときの普通株式への転換比率に係る取得価額等です。
A種優先株式につき1株あたりの残余財産の優先分配額が100万円であるときに、A種優先株式1株を100株に分割した場合、調整式の内容にもよりますが一般的にはこのA種優先株式の1株あたりの残余財産の優先分配額は1万円となります。
上記の残余財産の優先分配額等は、(内容に応じて)株式分割がされたときに調整式に基づき自動的に変更されますので、原則として当該変更につき定款変更に係る株主総会+種類株主総会の決議は不要です。
新株予約権の調整式
上記の種類株式の調整式と同様に、新株予約権についても株式分割に係る調整式が組まれているケースは多いです。
一例として、新株予約権の目的たる株式の数、新株予約権の行使に際して出資される財産の価額は変更が生じやすい箇所です。また、新株予約権の内容によっては、新株予約権の行使条件にも変更が生じることがありますので、新株予約権の内容はよく確認します。
新株予約権1個を行使したときに普通株式1株が交付される内容であるときに、普通株式につき1株を100株に分割した場合、調整式の内容にもよりますが一般的にはこの新株予約権1個を行使したときに交付される普通株式数は100株となります。
また、上記の例で1株あたりの行使価額が1万円と定められているときは、株式分割後のこの行使価額は100円となります(新株予約権1個あたりの行使価額という定め方の場合は、行使価額に変更が生じませんので、行使価額の定め方をご確認ください)。
これらは、株式分割がされたときは調整式に基づき自動的に変更されますので、原則として新株予約権の内容変更につき当該変更に係る株主総会の決議は不要です。
種類株式発行会社が株式分割をする手続き
普通株式とA種優先株式を発行している株式会社(取締役会非設置会社)が、全ての種類の株式について同一割合で株式分割をするときに手続きの一例は次のとおりです。
- 取締役の決定
- 株主総会の決議(+種類株主総会の決議)
- 登記申請
取締役の決定
株式分割をすることの意思決定を行います。
株主総会の招集の決定(会社法第298条1項)又は株主へ株主総会の目的である事項の提案内容を決定します(会社法第319条1項参照)。
後者につき、取締役の過半数で決定する会社法上の規定はありませんが、会社の意思決定として決定内容に加えるケースが多いでしょうか。
株主総会の決議
株主総会及び種類株主総会で、発行株式総数及び発行可能種類株式総数の変更、株式の分割を承認します。
発行可能株式総数及び発行可能種類株式総数を変更せず、全ての種類の株式を同じ比率で分割し、会社法第322条2項の定めがあるケースでは、株主総会の決議のみで問題ありません。
(基準日を定款に定めるときに、定款変更につき拒否権(会社法第108条8項)を持つ種類株式がある場合は当該種類株主総会の決議が必要です。)
必要に応じて、株主総会の決議によって株式分割の基準日に係る定款変更を承認します。
登記申請
発行済株式数、発行可能株式総数等の登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に法務局へ登記申請をします(会社法第915条1項)。
この登記の添付書類の一例は次のとおりです。
- 株主総会議事録+種類株主総会議事録
- 上記に関する株主リスト
- (取締役会設置会社の場合、取締役会議事録)
この登記の登録免許税は3万円です。
この登記で、変更が生じる可能性がある登記事項は次のとおりです。申請会社の状況及び決議内容に応じてご判断ください。
- 発行済株式の総数並びに種類及び数
- 発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容
- 第●回新株予約権の「新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法」
- 第●回新株予約権の「新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。