商業登記関係 株式分割の手続きと登記(スケジュール例あり)
株式の分割
株式会社は、株式の分割を行うことができます。株式の分割とは、例えば1株を5株に分割、あるいは1株を10株に分割するなどして、発行済株式総数が増えることをいいます。
発行済株式総数1000株の株式会社が、1株を10株に株式分割したときは、発行済株式が9000株増えることとなり、その総数は1万株となります。
株式分割は1株あたりの発行価額を下げて資金調達するときや、吸収合併・株式交換等の組織再編において合併・交換比率を調整するときに利用されることがあります。
株式分割を行うときは、発行済株式の全てが対象となるため会社自身が所有する株式(自己株式)も分割比率に応じて増えます。
株式分割によって自己株式も増える点は、株式無償割当ての手続きとの相違点の1つです。
種類株式会社と株式分割
種類株式を発行している株式会社では、特定の種類の株式だけを分割することや種類株式ごとに株式分割比率を変えた株式分割を行うこともできます。
普通株式100株、A種類株式100株を発行している会社が、普通株式についてのみ1株を10株に分割するようなケースや、普通株式については1株を10株に分割してA種類株式については1株を5株に分割するようなケースです。
前者では分割後の発行済株式は普通株式1000株、A種類株式100株となり、後者では普通株式1000株、A種類株式500株となります。
上記のようなケースでは、A種類株式に損害を及ぼすおそれがありますので、A種類株主によるA種類株主総会の特別決議が必要となります。
なお、一般的には定款に、普通株式を株式分割をするときは種類株式も同一比率で株式分割をする旨が定められていることがほとんどです。
株式分割の決議機関
株式分割をするときは、次の機関によってその決議を行います(会社法第183条2項)。
- 取締役会設置会社 ▶ 取締役会の決議
- 取締役会非設置会社 ▶ 株主総会の普通決議
株式分割の決議内容
株式分割をするときは、次の内容を決議します(会社法第183条2項)。
- 株式の分割により増加する株式の総数の、株式の分割前の発行済株式(種類株式発行会社にあっては、分割する株式の種類の発行済株式)の総数に対する割合
- 株式分割の基準日
- 株式分割の効力発生日
- 分割する株式の種類(種類株式発行会社の場合)
株式分割と発行可能株式総数
発行可能株式総数400株、発行済株式数100株という株式会社X(取締役会設置会社)において、1株を10株に株式分割をするときは、発行済株式数が発行可能株式総数を超えてしまいます。
発行可能株式総数は定款の記載事項ですので、これを変更するときは、原則として株主総会の特別決議が必要です(会社法第466条)。
一方で、株式会社は、株主総会の決議によらないで、株式分割の効力発生日における発行可能株式総数をその日の前日の発行可能株式総数に株式分割の比率を乗じて得た数の範囲内で増加する定款の変更をすることができます。(会社法第184条2項)。
つまり、上記の株式会社Xにおいて、1株を10株に株式分割するときは、取締役会の決議によって発行可能株式総数を4000株まで変更することが可能です。
なお、4000株を超えた発行可能株式総数に変更するのであれば、原則どおり株主総会の特別決議が求められます。
株式分割と発行可能種類株式総数
上記の株式会社Xが現在、種類株式を2種類以上発行している場合はどうでしょうか。
現に2以上の種類の株式を発行している株式会社が株式分割をする際に、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加しようとするときは、原則どおり株主総会の特別決議によって定款変更をしなければなりません(会社法第184条2項)。
また、種類株式に係る種類株主総会の特別決議も必要となるでしょう(会社法第322条1項)。
株式分割と基準日
株式分割をするときは、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときを除き、当該株式分割に係る基準日を定める必要があります(会社法第124条、第183条)。
そして基準日を定めたときは、その2週間前までに基準日及び分割比率などを公告しなければならないとされています。
官報の場合、公告が掲載されるまでは申込から最低5-6営業日はかかりますので、株式分割のスケジュールを組むときは注意が必要です。
定款に基準日を定めるケース
定款に株式分割の基準日が定められているときは、株式分割に係る基準日等の公告は不要です。
一方で、定款に株式分割に係る基準日が定められている会社というのはほとんどありませんので、株式分割をするときは、株主総会の特別決議によって定款に株式分割の基準日を定めるケースがあります。
この方法によれば、官報公告を経由する手続きが1ヶ月程度はかかるところ、株主の協力を得られることが条件となりますが、株式分割を1日で行うことも可能です。
なお、定款から株式分割の基準日を削除するときも株主総会の特別決議が求められてしまいます。
そこで、株式分割の基準日を定める株主総会の際に、当該基準日が株式分割の効力発生と同時に削除されるように設計しておくと、当該基準日を削除するための株主総会をしなくて済みます(例:なお、本条は効力発生日をもってこれを削除する。)。
アムスク株主総会決議取消請求訴訟
東京地裁(H26.4.17)と東京高裁(H27.3.12)の判決において、基準日の定款の定めは、基準日の2週間前までに存在することが必要であるとされました。
確かに、株式分割に係る基準日の定款の定めが基準日の2週間前までに存在することにより、会社法第124条において基準日の2週間前に公告をして株主が当該基準日を知ることができるようにしておかなければならないこととのバランスは取れるかと思います。
一方で、本件の対象会社は公開会社であり、非公開会社において株主全員の同意が得られるようなケースでは、株式分割を1日で行うことも問題となることは少ないのではないでしょうか。
株式分割の登記に必要な書類
株式分割の登記に必要となる書類の一例は次のとおりです。
- 取締役会議事録 又は 株主総会議事録+株主リスト
- 登記委任状
株式分割の登録免許税
株式分割の登記申請に係る登録免許税は3万円です。
同時に(同一の申請で)発行可能株式総数の変更の登記申請を行った場合も、株式分割と合わせて3万円のままです。
株式分割のスケジュール例
取締役会設置会社の株式分割のスケジュール例は次のとおりです。
即日効力を発生させるパターン
3月6日 | 取締役会の決議(停止条件付き株式分割、株主への提案決定) ※条件:定款変更の効力発生 |
3月6日 | 株主へ提案書・同意書の発送 株主から同意書の回収(定款変更の効力発生) |
株式分割の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
株主総会を開催+基準日設定後すぐに効力を発生させるパターン
取締役会の決議(株式分割、株主総会の招集決定) | |
株主総会の招集通知の発送 | |
株主総会の決議 | |
株式分割の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
株主総会を開催+基準日設定後2週間を置いて効力を発生させるパターン
取締役会の決議(株式分割、株主総会の招集決定) | |
株主総会の招集通知の発送 | |
株主総会の決議 | |
株式分割の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
基準日公告をして効力を発生させるパターン(定款の公告方法:官報)
3月6日 | 取締役会の決議(株式分割) 官報公告の申込み(基準日) |
官報公告の掲載 | |
株式分割の効力発生 | |
登記申請(2週間以内) |
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。