商業登記関係 種類株式発行会社が発行可能株式総数を変更するときの手続きと登記
発行可能株式総数と発行可能種類株式総数
株式会社においては、発行可能株式総数は登記事項とされていますので、必ず発行可能株式総数を定めなければなりません。
加えて、種類株式発行会社は、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容も登記事項とされていますので、発行可能種類株式総数も定める必要があります。
株式分割や種類株式を新たに発行する等の前提として発行可能株式総数を増やすことがあり、増やすときは株主総会の決議や登記手続きを適切に行わなければなりません。
発行可能株式総数については、こちらの記事もご参照ください。
株主総会の決議
発行可能株式総数は定款に定められていることが多く、これを変更するには≫株主総会の特別決議による承認を得なければなりません(会社法第466条)。
株式会社(現に2以上の種類の株式を発行しているものを除く。)は、株式分割と同時に発行可能株式総数を変更するときに、それが株式分割の分割比率の範囲内であれば取締役会の決議によって発行可能株式総数を変更することができます(会社法第184条2項)。
しかし、実際に2種類以上の種類株式を発行している株式会社が発行可能株式総数を変更するときは、株式分割と同時であっても取締役会の決議で変更することはできず、株主総会の決議が必要です。
種類株主総会の決議
種類株式発行会社が株主総会の決議を行うときは、株主総会の決議だけでな種類株主総会の決議も必要かどうかは常に検討をします。
会社が一定の行為をする場合において、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合は、種類株主総会の決議がなければ効力が生じないとされているためです(会社法第322条1項)。
また、株主総会において決議すべき事項のうち、株主総会の決議だけでなく、種類株主総会の決議があることを必要とする内容の種類株式も発行されていることがあります(会社法第108条1項8号)。
種類株主総会の決議を要しない旨の定め
譲渡制限付の種類株式を発行するときや、種類株式を目的とする新株予約権を発行するときは、当該種類株式に係る種類株主総会の決議が必要となりますが(会社法第199条4項、第238条4項)、この決議を不要とする定款の定めを置くことができます。
また、株式分割や吸収分割を行うときは、種類株主総会の決議が必要となりますが、この決議を不要とする定款の定めを置くことができます(会社法第322条2項)。
一方で、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数を増加させるときも、種類株主総会の決議が必要となりますが、この決議を不要とする定款の定めを置くことはできません(会社法第322条3項)。
そのため、発行可能株式総数を変更(増加)するときは、原則として種類株主総会の決議が必要となります。
議決権制限株式(無議決権種類株式)
種類株式の1つとして、議決権制限種類株式があり(会社法第108条1項3号)、株主総会において議決権を行使することができない種類株式は無議決権種類株式(完全無議決権株式)等と呼ばれています。
無議決権種類株式に係る株主は、文字通り(全体の)株主総会において議決権を行使することができませんので、そもそも定足数としてカウントされません。
しかし、無議決権種類株式に係る株主も、当該種類株主総会においては議決権を行使することができるとされています。
また、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数を増加させるときは上記のとおり種類株主総会の決議を要しない旨の定め(会社法第322条2項)の範囲外であるため、原則として種類株主総会の決議は必須となります。
発行可能株式総数の変更登記
発行可能株式総数、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容に変更が生じたときは、その効力発生日から2週間以内に登記申請をします。
発行可能株式総数を変更するときは、募集株式の発行や株式分割、新株予約権の発行を行う前提として行われることが多く、それらの変更登記も同時に申請することが少なくありません。
≫種類株式発行会社が、既存の種類株式を発行をして増資するときの手続き上の注意点
≫種類株式発行会社が、新たに新株予約権を発行するときの手続き上の注意点
≫株式の分割と登記手続き
登記すべき事項として、(変更点のない)各種類の株式の内容も記載しなければならないため、申請書にボリュームが出ることがあります。
添付書類
発行可能株式総数の変更、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容の変更登記の申請書に添付する書類の一例は、次のとおりです。
- 株主総会議事録及び種類株主総会議事録
- 株主リスト(種類株主総会分も含む)
- 定款(株主総会議事録の記載から変更後の定款が不明な場合)
登録免許税
この登記の登録免許税は3万円です。
登記は登記の専門家である司法書士にご相談ください
単に発行可能株式総数の変更だけを行うケースというのは多くはありません。
募集株式の発行、募集新株予約権の発行、株式分割、あるいは組織再編(合併、分割、交換、株式移転)等を行うことの前提として行われることが多く、発行可能株式総数の変更手続きを間違えてしまうとそれらの手続きにも影響が出てしまいます。
投資家が既に入っている場合は特に、決議事項が漏れていたり、そもそも決議が必要なのにしていなかったということは許されないでしょう。
司法書士は会社法・商業登記の専門家ですので、商業登記の手続きを行うときは、是非お近くの司法書士に相談をしてみてください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。