商業登記関係 株式会社における資本金、資本準備金、利益準備金、その他資本剰余金、その他利益剰余金の振替
資本金、資本準備金等の振替
純資産の部における株主資本の「自己株式」を除く各項目の額の一部は当該各項目間で振り替えることができ、それらは会社法の手続きに則って行います。
- 株主資本の「自己株式」を除く各項目
=資本金、資本剰余金(資本準備金、その他資本剰余金)、利益剰余金(利益準備金、その他利益剰余金)
資本金等を増減させる税務上のメリット・デメリットは税理士の先生の分野ですので触れませんが、ここでは株主資本の「自己株式」を除く各項目の振替手続きについて記載しています。
資本金から資本準備金への振替
資本金の額を減少して、資本準備金の額を増加することができます(会社法第447条1項2号、会社計算規則第26条1項1号参照)。資本金の額の減少額につき、資本準備金に振り替えなかった分はその他資本剰余金に振り替わります。
資本金の額を減少するときは次の手続きが必要となり(順不同)、期間としては1.5ヶ月~2ヶ月程度かかります。
- 株主総会の特別決議(原則)
- 債権者保護手続き(必須)
1.の株主総会の決議要件につき、定時株主総会において、欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えない額を減少させる場合は普通決議となります(会社法第309条2項9号)。
また、株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときは、株主総会の決議でなく取締役の決定(取締役会の決議)で行うことも可能です(会社法第447条3項)。
資本金の額は登記事項であるため、資本金の額を減少させたときはその効力発生日から2週間以内にその変更登記をします(会社法第915条1項)。
資本金からその他資本剰余金への振替
資本金の額を減少して、その他資本剰余金の額を増加することができます(会社法第447条1項、会社計算規則第27条1項1号参照)。
資本金の額の減少の手続き、資本金の額の減少後は登記が必要な点は前項のとおりです。
資本金から利益準備金又はその他利益剰余金への振替
減少させた資本金の額を直接、利益準備金又はその他利益剰余金へ振り替えることはできません。
減少させた資本金の額をその他資本剰余金に振り替え、その他資本剰余金の額をその他利益剰余金の額に振り替え(損失の処理)をすることは可能です。
ただし、その他資本剰余金からその他利益剰余金に振り替えることができる額は、決算で承認された貸借対照表に計上された利益剰余金(利益準備金+その他利益剰余金)のマイナスの額と同額までです。
資本準備金から資本金への振替
資本準備金の額を減少して、資本金の額を増加することができます(会社法第448条1項、会社計算規則第25条1項1号参照)。資本準備金の額の減少額につき、資本金に振り替えなかった分はその他資本剰余金に振り替わります。
資本準備金の額を減少し、その減少した資本準備金の額の全部を資本金に振り替えるときは次の手続きが必要となります。
- 株主総会の普通決議(原則)
株式の発行と同時に資本準備金の額を減少する場合において、当該資本準備金の額の減少の効力が生ずる日後の準備金の額が当該日前の準備金の額を下回らないときは、株主総会の決議でなく取締役の決定(取締役会の決議)で行うことも可能です(会社法第448条3項)。
減少する資本準備金の額の全部を資本金とする場合は、債権者保護手続きが不要とされています(会社法第449条1項)。
資本準備金からその他資本剰余金への振替
資本準備金の額を減少して、その他資本剰余金の額を増加することができます(会社法第448条1項、会社計算規則第27条1項2号参照)。
資本準備金の額を減少し、その減少した資本準備金の額の一部又は全部をその他資本剰余金に振り替えるときは次の手続きが必要となり(順不同)、期間としては1.5ヶ月~2ヶ月程度かかります。
- 株主総会の普通決議(原則)
- 債権者保護手続き(原則)
1.株主総会の普通決議につき、株式の発行と同時に資本準備金の額を減少する場合において、当該資本準備金の額の減少の効力が生ずる日後の準備金の額が当該日前の準備金の額を下回らないときは、株主総会の決議でなく取締役の決定(取締役会の決議)で行うことも可能です(会社法第448条3項)。
2.債権者保護手続きにつき、定時株主総会において、欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えない額を減少させる場合は債権者保護手続きが不要となります(会社法第449条1項)。
資本準備金から利益準備金又はその他利益剰余金への振替
減少させた資本準備金の額を直接、利益準備金又はその他利益剰余金へ振り替えることはできません。
減少させた資本準備金の額をその他資本剰余金に振り替え、その他資本剰余金の額をその他利益剰余金の額に振り替え(損失の処理)をすることは可能です。
ただし、その他資本剰余金からその他利益剰余金に振り替えることができる額は、決算で承認された貸借対照表に計上された利益剰余金(利益準備金+その他利益剰余金)のマイナスの額と同額までです。
その他資本剰余金から資本金への振替
その他資本剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができます(会社法第450条1項、会社計算規則第25条1項2号参照)。
その他資本剰余金の額を減少して資本金の額を増加するときは、株主総会の普通決議によって次の事項を定めます。
- 減少するその他資本剰余金の額
- 資本金の額の増加がその効力を生ずる日
その他資本剰余金から資本金準備への振替
その他資本剰余金の額を減少して、資本準備金を増加することができます(会社法第451条1項、会社計算規則第26条1項2号参照)。
その他資本剰余金の額を減少して資本準備金を増加するときは、株主総会の普通決議によって次の事項を定めます。
- 減少するその他資本剰余金の額
- 資本準備金の額の増加がその効力を生ずる日
その他資本剰余金から利益準備金への振替
減少させたその他資本剰余金の額を直接、利益準備金へ振り替えることはできません。
その他資本剰余金からその他利益剰余金への振替
その他資本剰余金の額を減少して、その他利益剰余金の額を増加することができます(会社法第452条)。
その他資本剰余金からその他利益剰余金への振り替えるときは、株主総会の普通決議によって次の事項を定めます(会社計算規則第153条1項)。
- 増加する剰余金の項目
- 減少する剰余金の項目
- 処分する各剰余金の項目に係る額
その他資本剰余金からその他利益剰余金へ振り替えることのできる額は、決算で承認された貸借対照表に計上された利益剰余金(利益準備金+その他利益剰余金)のマイナスの額と同額までです。
利益準備金から資本金への振替
利益準備金の額を減少して、資本金の額を増加することができます(会社法第448条1項、会社計算規則第25条1項1号参照)。利益準備金の額の減少額につき、資本金に振り替えなかった分はその他利益剰余金に振り替わります。
利益準備金の額を減少し、その減少した利益準備金の全部を資本金に振り替えるときの手続きについては、上記「資本準備金から資本金への振替」と同様です。
利益準備金から資本準備金への振替
減少させた利益準備金の額を直接、資本準備金へ振り替えることはできません。
利益準備金からその他資本剰余金への振替
減少させた利益準備金の額を直接、その他資本剰余金へ振り替えることはできません。
利益準備金からその他利益剰余金への振替
利益準備金の額を減少して、その他利益剰余金の額を増加することができます(会社法第448条1項、会社計算規則第29条1項2号参照)。
利益準備金の額を減少し、その減少した利益準備金の額の一部又は全部をその他利益剰余金に振り替えるときの手続きについては、上記「資本準備金からその他資本剰余金への振替」と同様です。
その他利益剰余金から資本金への振替
その他利益剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができます(会社法第450条1項、会社計算規則第25条1項2号参照)。
その他利益剰余金の額を減少して資本金を増加するときは、株主総会の普通決議によって次の事項を定めます。
- 減少するその他利益剰余金の額
- 資本金の額の増加がその効力を生ずる日
減少させることのできるその他利益剰余金の額は決算で承認された貸借対照表に計上されたその他利益剰余金の額までであり、期中の利益は振り替えることはできません。
その他利益剰余金から資本準備金への振替
減少させたその他利益剰余金の額を直接、資本準備金へ振り替えることはできません。
その他利益剰余金からその他資本剰余金への振替
事業年度末においてその他資本剰余金がマイナスとなった場合は、その他資本剰余金をゼロとし、その他利益剰余金から減額するようですが会計の話ですのでここでは割愛します。
その他利益剰余金から利益準備金への振替
その他利益剰余金の額を減少して、利益準備金を増加することができます(会社法第451条1項、会社計算規則第28条1項)。
その他利益剰余金の額を減少して利益準備金を増加するときは、株主総会の普通決議によって次の事項を定めます。
- 減少するその他利益剰余金の額
- 利益準備金の額の増加がその効力を生ずる日
減少させることのできるその他利益剰余金の額は決算で承認された貸借対照表に計上されたその他利益剰余金の額までであり、期中の利益は振り替えることができません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。