商業登記関係 株式会社の発起設立における払込証明書(金銭出資)
発起設立
発起設立とは、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいいます)の全部を引き受ける方法による設立方法のことをいいます(会社法第25条1項1号)。
会社設立の方法として発起設立と募集設立の2つの方法がありますが、会社設立の方法としてそのほとんどは発起設立かと思います。
発起人の引受株数と払込金額
余談ではありますが、会社設立後に募集株式の発行をする際、1回の募集における内容(1株の金額など)は株式の引受人ごとに違いを設けることはできません。
しかし、発起設立においては、
発起人A:1株 99万円
発起人B:99株 1万円
というように、引き受ける株式と払い込む金額を自由に決めることが可能です。
出資金を払い込むタイミング
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資にかかる金銭の全額を払い込まなければならないとされています(会社法第34条1項)。
定款認証日前でも払い込むことはできるか
「設立時発行株式の引受け後」とは、定款または発起人全員の同意(会社法第32条1項)のあった日以降のことをいいますので、当該日以降の日付(同日可)で出資金の払い込みがあったことを確認できれば、出資金の払い込み日が公証人による定款認証以前の日付(同日可)であったとしても、設立登記申請は受理される運用となっています。
出資金を払い込む口座
出資金の払込みは、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所においてしなければならないとされています(会社法第34条2項)。
「銀行等」とは、主に次のことを指します。
- 銀行
- 信用金庫
- 労働金庫
- 信託銀行
- 外国銀行の日本にある外国銀行支店
外国籍の方や外国企業が発起人となる場合は、出資金を払い込む口座がなく苦労されるケースがあります。
口座名義人
出資金の払い込みは原則として、発起人代表の口座にする必要があります。
当該発起人が普段利用している口座でも、新しく開設した口座でも登記手続き上は問題ありませんが、普段利用している口座を使うことを選択する場合は、個人財産と会社の財産である出資金が(一つの口座に表面上)混同してしまうことになるので、個人財産と会社財産を明確に分けたい場合は、発起人が新しく個人口座を開設することになります。
屋号付きの口座
個人事業主が法人成りする際、個人事業主として使っている屋号付きの個人口座も、出資金の払い込み口座として利用することは可能です。
発起人以外の口座を利用
発起人が日本の銀行等の口座をもっていない場合、設立時の代表取締役名義の預金口座に出資金を払い込みをしても、登記申請は受理される扱いとなっています。ただし、この場合は発起人代表から当該代表取締役に対して、出資金の払い込みを受ける権限授与の委任状も登記申請書に添付する必要があります。
発起人または代表取締役以外の口座を利用
発起人または代表取締役以外の第三者の口座に出資金が払い込まれたことの証明をもって、払込みがあったことの証明書として登記申請書に添付したとしても法務局は当該申請を受理する運用にはなっておりません。
(H29.3.22追記)設立時取締役の口座も利用可能です。また、一定のケースでは第三者の口座の利用も可能となりました。
>>>設立時、払込証明として利用できる預貯金口座名義人の範囲
払込証明書
発起設立にかかる会社設立登記申請には、金銭の払込みがあったことを証する書面(払込証明書といいます)を添付しなければなりません。
払込証明書は、設立時代表取締役の作成した証明書に、
- 払い込みのあった銀行等の口座の写し
- 取引明細表などの銀行等が作成した書面
のどちらかを合綴して作成します。
上記1.口座の写し
- 通帳の表紙の写し
- 表紙を1枚めくったところのページの写し
- 出資金の振込金額や氏名が表示されたページの写し
の3枚が必要です。
昔に開設したゆうちょ銀行の口座及び通帳を使用するときは、こちらの記事もご参照ください。
インターネット銀行
今は実店舗を有しないインターネット銀行もあります。出資金を払い込む口座は、インターネット銀行でも問題ありません。
インターネット銀行、あるいは実店舗のある銀行だけれどもWEB通帳にしていて預金通帳を持っていない場合、上記通帳の写しは用意できません。
その場合は、一般的に次の事項が記載されているインターネットの画面をプリントアウトすることで代替することが可能です。
- 金融機関名
- 口座名義人
- 支店名、支店番号
- 口座番号
- 預金の種類
- 出資金が払い込まれた日
- 払い込まれた金額
- 払い込んだ人の氏名
(不安な場合は、管轄法務局などにお問い合わせください)
資本金の払い込み
預金残高があるだけでは足りない
払い込みのあったことを明らかにする必要があるため、預金残高の金額が出資金の金額以上あるというだけでは足りず、必ず「振込」などの原因が記載されていなくてはなりません。口座名義人である発起人は、振込ではなく「入金」でも問題ありません。
資本金100万円の会社を設立するときは、単に預金残高が100万円以上あるだけでは足りません。一度100万円を引き出して、再度100万円を入金する必要がありいます。
払い込む人の氏名
発起人が2名以上いる場合、口座名義人ではない発起人が、口座名義人である発起人に現金を手渡しで渡し、口座名義人である発起人が代わりに払込をすることなどもあり得るため、発起人全員の氏名が払込人として記載されていなくても問題ないとされています。
払い込む金額
払い込む金額は、例えば出資金・資本金を100万円と定めた場合、100万円以上の振込や入金の記載があっても問題ありません。100万円ぴったりである必要はありません。(100万円未満の金額は、当然登記申請は受理されません。)
複数回による振り込みも可能です(50万円の振り込みを2回行うなど)。
海外からの出資金の送金
海外の金融機関から、日本の金融機関に送金するときは色々と手数料を引かれることになりますので、上記の例の場合、100万円ぴったりを海外から送金をかけたとしても日本の金融機関に振り込まれる金額は100万円未満となってしまうことがります。
発起人の日本の金融機関の口座に100万円以上の金額が着金されるように送金してください。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。