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代表司法書士 石川宗徳の 所長ブログ&コラム

いわゆる相続対策として親族へ渡す株式につき、種類株式と属人的株式を比較する

会社の成長段階で株式譲渡

相続対策の一環として、これから成長する(利益が溜まる)予定の株式会社又は合同会社の株式又は持分の大部分を親族に予め譲渡しておくケースがあります。このようなケースの多くは、予め株式又は持分の大部分を譲渡はするけれども、支配権は譲渡人が握っておきたいというものです。

株式会社Xにおいて唯一の株主兼取締役であるAが、発行済株式の90%を子2名(B及びC)に譲渡した場合、資産の譲渡という目的は達成できますが、議決権の90%を自分以外の者が持つと、株主総会における議決権のマジョリティではなくなるため自身が取締役でいられる保証すら無くなります。

また、株式は一度譲渡すると譲受人の固有の財産となりますので、譲渡人の意思で勝手に回収することはできません。

そして、株式の保有者は譲渡又は相続等によって変わる可能性がありますので、当初譲受人がいつまでも株主であり続けるかは未確定であり、それは全ての株式に譲渡制限(会社法第107条1項1号)が付いている非公開会社であっても同様です。

株式を譲渡するときは、株式には株主総会における議決権が付与されていること、また、譲渡又は相続等によって株式の保有者が変わる可能性がある点を考慮し、譲渡人の意図にできるだけ沿った内容が実現できるように検討する必要があります。

資産管理会社として合同会社が利用されることもありますが、ここでは非公開会社である株式会社を利用するケースを見ていきます。

種類株式又は属人的株式の利用

株式の90%を未成年の子に譲渡しても、親権者として議決権を行使できるうちは特段の問題が生じないかもしれませんが、配偶者と離婚した場合や、未成年の子が成人したときにリスクが顕在化し得ます。

全てのケースにおいて完璧に対策できるというものは無いと思っておりますが、議決権又は株式の譲渡については事前に一定の対策をとることが可能とされています。

その対策の一例は、種類株式又は属人的株式を利用する方法です。どちらにもそれぞれ特徴がありますので、その特徴を理解した上で導入する必要があります。

ここでは、株式会社の株式を子に譲渡するというケースにおける種類株式(会社法第108条1項)と属人的株式(会社法第109条2項)の比較を記載しています。

なお、相続対策や資産の譲渡については必ず税務的な論点を顧問税理士の先生に確認の上、手続きを進めることをお勧めします。

種類株式と属人的株式の比較

本ケースにおいて特に重要となる、種類株式と属人的株式の比較は次のとおりです。

種類株式
属人的株式
議決権
有り or 無し
自由に設定可
剰余金
差を設けること可
差を設けること可
取得条項
設定可
設定不可
承継者への適用
有り
無し
登記の有無
必要
不要
譲渡と設定の順
設定後に譲渡可
譲渡後に設定

種類株式にできて、属人的株式にはできないこと

属人的株式は会社法第109条2項のとおり、

  1. 剰余金の配当を受ける権利
  2. 残余財産の分配を受ける権利
  3. 株主総会における議決権

上記に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるに留まりますので、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権及び役員選任権は種類株式においてのみ定めることができる事項です(拒否権及び役員選任権は、属人的株式でも同様の効果を得られる仕組みの構築は可かもしれません)。

支配権と財産権を分離したいケースにおいては、上記のうち特に取得条項は重要なポイントですので、譲受人から株式を回収する手段を残しておきたい場合は種類株式を採用します。

株式が譲渡又は相続されると効力を失う属人的株式

種類株式は誰が当該株式を保有しているときでもその種類株式の内容に拘束されるため、例えば無議決権株式であれば、株式が譲渡されたとしても譲受人(承継人)は議決権を行使することはできません。これは種類株式の大きな特徴の一つです。

一方で、属人的株式は原則として、株主が変わると変更前の株主に適用されていた属人的株式の効力が失われます。

属人的株式はあくまで株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるに過ぎませんので、株主が変更された後においても譲渡人(被相続人)たる株主への取扱いを譲受人(承継人)へ適用するのであれば、改めて定款変更を行うことが原則です。

属人的株式を選択するのであれば、株主に変更が生じることも考慮してその内容を検討する必要がありますが、無議決権としていた譲渡人(被相続人)から株主が変わると譲受人(承継人)は議決権を有する点について、Aの議決権を1株につき100個等に予めしておくことが一例でしょうか。なお、属人的株式を変更する決議要件(特殊決議、会社法第309条4項)も考慮しておきます。

議決権に関するケア

議決権の有無は種類株式、属人的株式どちらにおいても設定することが可能です。Aは議決権有り、B及びCは議決権無しとしておくと、株主総会の運営はスムーズではあります。

ただし、前述のとおりその議決権の有無を株式の譲受人(承継人)に対しても適用できるかにつき、種類株式においては可能ですが属人的株式においてはクリアではありません。この点で、種類株式の方が堅い運用ができるのではないでしょうか。

なお、議決権の有無ではなく議決権に差を設けることができるかにつき、属人的株式ではそれができ、種類株式においても種類株式ごとに単元株を設定することで実現は可能です。

完全無議決権株式は不可

種類株式において株主総会の全ての議案につき議決権を行使することができない旨を定めることができますが、特定の事項を決議するときは、当該種類株式に係る種類株主総会が求められます。

定款に定めることで当該種類株主総会をいくつか不要とすることも可能ですので、当該定款の定めを置くことが多いところ、定款で定めても排除できない種類株主総会(会社法第322条1項1号)は残ります。

≫(株式会社)種類株主総会の決議を排除できる事項・できない事項

Aも一部(普通株式ではない)種類株式を保有し、属人的株式を用いてAの議決権を膨らませておくような対策もあるでしょうか。

株式の譲渡に関するケア

株式会社においてその発行する株式の全部に譲渡制限(会社法第107条1項1号)が付いている場合、「株式に譲渡制限が付いている」=「譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する」ということですので、譲渡自体が禁止されているわけではありません。

一見、株主から株式の譲渡承認請求(会社法第136条)がされた場合、その承認をしなければ株式は譲渡されないように見えるかもしれませんが、株主は発行会社が譲渡承認をしない場合は買取人を指定するよう発行会社に請求することができます(会社法第138条1号ハ)。

株主から譲渡承認請求及び買取人の指定が求められたときに、発行会社又はAに資金があり当該株式を買い取ることができれば外部に株式は流れませんが、資金がない場合はどうでしょうか。

譲渡による株式の移転に対する対策

株式に譲渡制限が付いている株式会社においては、突然知らない人に株式が譲渡されることはありません。(特定の属性の人(例:他の株主)が譲渡による取得をするときは当該譲渡を承認したものとみなす旨の規定がある場合を除きます。)

種類株主に何かあったときに備えて発行会社が種類株式を回収できるよう、取得条項(会社法第107条1項6号)を付けておくことも考えられます。

取得条項のトリガーは株主総会が別に定める日が到来すること等としておき、1株当たりの取得対価は純資産額/取得時の発行済株式数等としておくことが考えられますが、有償での取得の場合、分配可能額の制限(会社法第461条)を受けますので、分配可能額が無いと取得できない点には注意が必要です。

相続による株式の承継に対する対策

株式が相続により意図しない人へ承継されることへの対策としては、相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め(会社法第174条)があります。

種類株式の保有者が死亡したときに、この請求権を行使するかは会社側で決められるので(行使する際は株主総会の決議は必要)、本事例のようなケースではとりあえず当該定款の定めを置いておくケースが多いのではないでしょうか。

なお、この定款の定めがあれば必ず相続人から株式を取得することができるわけではなく、株主総会の決議を経ること、発行会社が株主に相続があったことを知った日から1年以内に請求権を行使すること、及び分配可能額の制限(会社法第461条)を受けます。

相続による株式の承継に対する対策としても、前項の取得条項は一定の効果のある対策となります。

普通株式の相続対策

Aが亡くなるとAが有する普通株式は相続財産となり、原則として相続人間の遺産分割協議により誰が相続するかが決まります。

支配権の基となる普通株式を巡って相続人が争うことがあれば、それはAが望むことでないことは間違いありません。

普通株式を誰に相続させたいか決まった段階で、Aが普通株式の帰属について遺言をのこしておくことが考えられます。


この記事の著者

司法書士
石川宗徳

代表司法書士・相続診断士 石川宗徳 [Munenori Ishikawa]

1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)

2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。

2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。

また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。

RSM汐留パートナーズ司法書士法人では、
商業登記不動産登記相続手続き遺言成年後見など、
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