不動産登記関係 相続放棄をした相続人を含む相続登記がされてしまったとき
自身が関与せずに相続登記をされる場合
亡くなった人(被相続人といいます)が所有していた不動産につき、その登記簿の所有者名義人を、被相続人から相続によって当該不動産を取得した相続人名義に変更する登記を「相続登記」といいます。
相続登記は、遺言や遺産分割協議によって取得した相続人が自分で(あるいは司法書士に依頼をして)行うことが一般的です。
登記申請は誰でも行えるわけではなく、全く関係のない第三者が相続登記を申請したとしてもその申請は却下されます。
しかし、相続登記においては自身が関与しなくても、相続人の全員を名義人とする相続登記が申請されるケースがあります。
共同相続人からの法定相続分に応じた相続登記
法定相続人は、法定相続分に応じた持分割合による相続登記を単独で行うことができます。
相続人が子ABCといるときは、Aが単独でそれぞれ持分を3分の1ずつとする相続登記を申請することが可能です。
(住所) 持分3分の1 B
(住所) 持分3分の1 C
ただし、申請人以外には権利証(登記識別情報通知)が発行されないため、Aが単独で相続登記を申請したときは、BCには当該持分に関する権利証は発行されません。
また、Aは自分の持分だけの相続登記を申請することはできません。
債権者代位による法定相続分に応じた相続登記
不動産に担保権を有している債権者や、被相続人・相続人に対して債権を有する債権者は、その担保権を実行する等の必要があるときは、相続人に代わり相続登記を申請することが可能です。
相続人のうち1名からされた上記相続登記と同様に、債権者代位によりされた相続登記においては、相続人全員分の権利証が発行されません(持分取得者が登記申請人ではないため)。
相続登記後の登記簿の名義人を訂正(変更)する
相続人が子ABCといるときに、Aが単独でそれぞれの持分を3分の1ずつとする相続登記を申請したとき、あるいはAの債権者が代位して同様の相続登記が申請されたときに、Cが相続放棄をしていた場合はどうでしょうか。
Cが相続放棄をした効果として、Cは最初から相続人ではなかったことになるため(民法第939条)、相続財産である不動産を取得することはできません。
しかし、相続放棄をしたことは公示されることはないため、相続放棄をした相続人がその名義人として相続登記をされることはあり得ます。
なお、もしCが相続登記を申請した場合は、当該行為が単純承認に該当するため、相続放棄をすることができなくなると思われます。
相続登記前に相続放棄をしていた場合
相続登記が申請される前にCが相続放棄をしていたときは、相続登記の内容が間違っていたことになるため、Cを登記名義人から外すためにCは他の相続人と協力をして、更正登記を申請することができます。
なお、相続登記が債権者の代位によりされているときは、更正登記の申請の添付書類として当該債権者の承諾書(+印鑑証明書)が必要となります。
相続登記後に相続放棄をした場合
相続登記後にCが相続放棄をしたときは、(相続登記申請時において)相続登記自体は間違っていなかったため、Cを登記名義人から外すためには、C持分の全部移転による持分全部移転の登記を申請することになります。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。