商業登記関係 取締役(監査役)を辞任したのに、その登記申請を会社がしてくれないとき
取締役(監査役)の辞任と登記
取締役、監査役等の役員が辞任をしたときは、その旨の変更登記申請を管轄法務局にしなければなりません。
この役員辞任による変更登記は、辞任の効力が発生した日から2週間以内に申請する必要があります。
取締役の辞任と権利義務取締役
取締役を辞任したくても、取締役を辞任して退任できないときがあります。
それは、辞任をした取締役が権利義務取締役として残ってしまう場合です。
権利義務取締役とは、任期満了や辞任によって取締役が退任するときに、その取締役が退任することにより法定の取締役数を満たさなくなってしまう場合に、後任者が就任するまで、取締役としての権利義務を有する取締役のことをいいます(会社法第346条1項)。
典型的な例としては、取締役会設置会社は取締役が3名以上必要であるため、辞任することにより取締役が2名となってしまうときは辞任する取締役が権利義務取締役となります(新しく1名取締役を選任するか、取締役会を廃止することにより権利義務取締役化を防ぐことができます)。
権利義務取締役については、こちらの記事もご参照ください。
≫権利義務取締役の辞任・解任登記
権利義務取締役の状態を脱するためには、法定の取締役数を満たすことができる人数の取締役が就任する必要があります。
役員変更の登記申請権者
会社の役員変更登記(取締役の辞任登記等)は、会社の(印鑑届出をしている)代表者または当該代表者から委任を受けた人が行います。
辞任をした取締役が、自身の辞任の登記申請を行うことはできません。
また、登記申請をする会社の代表者は、登記申請時の代表者となりますので、辞任をした取締役が印鑑届出をしている代表取締役であったとしても、同様に自身の辞任の登記申請を行うことはできません。
会社が自分の辞任登記を申請してくれない
辞任をしたのにも関わらず取締役として登記簿に記載されたままでは、当該取締役がいるからその会社と取引をした等と主張されたときに、その取引相手に既に退任をしていることを主張することはできません。
また、権利義務取締役として残るときは、取締役としての義務が残っていますのでそのリスクは負ったままとなります。
辞任をした取締役が権利義務取締役に該当しないときに、辞任届の提出はその取締役自身が行いますが、前述のとおり辞任による変更登記申請はその取締役が行うことはできません。
会社がその変更登記をすることは義務付けられていますが、お金(登録免許税)がかかること等を理由に登記申請をしてもらえないケースがあります。
そのときに、辞任をした取締役はどのような手段を取ることができるのでしょうか。
登記を申請するよう会社に伝える
適法に取締役が辞任できるとき(したとき)は、会社は会社法第915条によりその登記申請を行う義務があります。
会社がその登記申請をすることを忘れていたり、登記申請をする必要があることを知らなかったりするかもしれません。
登記申請をする義務を履行するように、辞任をした取締役が会社に対して、辞任による変更登記申請をするよう伝える方法が考えられます。
裁判所に訴えを提起する
会社が取締役の辞任による変更登記を申請しないときは、その会社を相手として取締役退任登記手続請求訴訟を提起することができます。
この訴訟に勝訴判決を得ることにより、会社が関与すること無しに、辞任をした取締役だけで変更登記の申請を行うことができるようになります。
この登記申請には、上記訴訟の確定判決正本を添付します。
後任者の選任
取締役退任登記手続請求訴訟の勝訴判決を得たときに、当該取締役が辞任することにより取締役の法定人数に満たない場合は、辞任による退任登記をすることができません。
このようなケースでは、仮の取締役を裁判所に選任してもらうよう請求することが考えられますが、必ずしもこの請求が認められるとは限らないようです。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。