商業登記関係 債権者保護手続きの同時公告は、いつの時点の貸借対照表の要旨を掲載するか
債権者保護手続きと決算公告
吸収合併や新設合併、資本金の額の減少(減資)の手続きや、一定の要件を満たした合併以外の組織再編手続きにおいては、債権者保護手続きを行わなければなりません。
債権者保護手続きでは、原則として、
- 官報公告
- 知れたる債権者への個別催告
の両方を行います。
知れたる債権者がいない場合は、債権者への個別催告は不要(できない)ですが官報公告は必要です。
また、会社の公告方法が官報以外、例えば電子公告である場合でも、官報公告は必ずしなければなりません。
なお公告方法が官報以外である会社では、知れたる債権者への個別催告の代わりに、公告方法として定められている方法で公告をすることにより、知れたる債権者への個別催告を省略することができます。
債権者保護手続きにおける官報公告の内容
一例として、吸収合併の消滅会社は、吸収合併をするときの債権者保護手続きにおいては次の事項を公告します(会社法第789条2項)。
- 吸収合併をする旨
- 存続会社の商号及び住所
- 消滅会社及び存続会社の計算書類に関する事項
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
計算書類に関する事項
計算書類に関する事項とは、最終事業年度に係る貸借対照表の要旨を掲載した決算公告をしている会社の場合は、その掲載されている場所を特定できる事項です(会社法施行規則第188条)。
官報で決算公告をしている会社であれば、
- 掲載紙が官報であること
- 官報の日付
- 公告が掲載されているページ
が該当します。
最新の決算公告をしていない会社であれば、合併公告の事前に決算公告をするか、あるいは合併公告と同時に貸借対照表の要旨を掲載しなければなりません(同時公告といいます)。
決算公告として認められるか
合併公告と同時に貸借対照表の要旨を官報へ掲載した場合、公告方法が官報である会社においては、これを決算公告として扱うことができるとされています。
公告方法が官報以外の会社では、決算公告の義務を果たしたことにはなりませんので、別途会社の公告方法で決算公告をすることになります(なお、しなくても債権者保護手続きに影響はありません)。
決算公告が不要な会社
合名会社、合資会社、合同会社及び有限会社には決算公告の義務がありません。
例えば吸収合併における債権者保護手続きにおいても、上記4社は貸借対照表の要旨を官報等に掲載する必要がありません。
その代わりに、貸借対照表を公告する必要がない旨を掲載します。
貸借対照表の要旨はいつの時点のものか
同時公告は、どの事業年度に係る貸借対照表の要旨等を掲載しなければならないのでしょうか。
これは最終事業年度に係る貸借対照表の要旨等とされています。
最終事業年度に係る貸借対照表とは、定時株主総会において決算承認された貸借対照表のことをいいます。
具体的な事例
3月決算(事業年度末が3月31日)の会社が毎年6月に定時株主総会を開催しているケースにおいて、4月に債権者保護手続きを行う場合を考えてみます。
平成30年4月に合併公告をするのであれば、平成29年3月31日までの事業年度に係る貸借対照表の要旨等を掲載した決算公告が該当します。
同時公告をする場合は平成29年3月31日までの事業年度に係る貸借対照表の要旨等を掲載することになります。
平成30年3月31日までの事業年度は終わっていますが、その貸借対照表はまだ株主総会において承認されていないためです。
※本ページは、会社法上の大会社を対象とはしていません。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。