商業登記関係 取締役1名の株式会社が取締役会を設置する手続きと登記
取締役会を新たに設置する
最初は自分1人(取締役1名)で会社を運営してはきたけれども、業務拡大にともない取締役を増やして取締役会を設置したくなりました。どのような手続きが必要でしょうか。
取締役会を新たに設置すると、会社の機関構成が変わるため次の事項を変更しなければなりません。
- 取締役2名以上の選任
- 監査役1名以上の選任 ※
- 定款の変更
※非公開会社は、会計参与を設置すれば、必ずしも監査役を選任する必要はありません(会社法第327条2項)。
取締役会を設置するには株主総会の決議が必要
取締役の選任、監査役の選任、定款の変更は、全て株主総会の決議によって行います。
それぞれの決議要件は、取締役、監査役の選任については普通決議、定款の変更については特別決議となっています。
≫株主総会とその決議要件(普通決議、特別決議、特殊決議 他)
取締役会の設置と株主総会の権限
取締役会のない株式会社の株主総会は万能機関であり、あらゆる事項を決議することができます(会社法第295条1項)。
取締役会を設置すると、会社の運営に関する事項等の一定の事項については取締役会の権限となるため、会社法や定款に定めた事項についてのみ決議をすることができるようになります(会社法第295条2項)。
(株主総会の権限)
会社法第295条1 株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
(3項省略)
取締役会設置と検討事項
取締役会を設置するときは、機関構成と定款が大きく変わります。
株主総会の開催に先立ち、次のような事項を検討することが一般的です。
取締役2名以上の選任
取締役会を設置するには、取締役が3名以上いることが必要です。
取締役1名の株式会社が取締役会を置くには、2名以上の取締役を新たに選任しなければなりません。
監査役1名以上の選任と監査役の権限
取締役会を設置するには、監査役1名以上いることが必要です(非公開会社が会計参与を置く場合を除く)。
取締役1名の株式会社が取締役会を置くには、1名以上の監査役を新たに選任しなければなりません。
また、監査役の監査権限について、業務監査権限+会計監査権限を付与するのか、会計監査権限のみを付与するのか検討します。
取締役と監査役の任期
取締役が1名の株式会社の多くは、任期を10年としているのではないでしょうか。
役員が複数名になると、必ずしも任期10年がいいとは限りません。
任期の途中で解任することが難しいことは少なくないため、任期を短くして一定期間毎に、役員として再任するかどうかという方法で適性や結果をチェックする会社も少なくありません。
株式の譲渡制限規定
株式の譲渡制限につき、定款に
と定めている会社は、株式の譲渡承認機関を変更するか検討します。
譲渡承認機関を取締役会にするには、次のように変更します。
役員報酬
取締役の報酬及び監査役の報酬は、株主総会の決議によって決定します(会社法第361条1項、会社法第387条1項)。
取締役を2名以上、監査役を1名以上選任することになるため、それぞれの役員報酬をどうするか検討します。
変更後の定款内容
取締役会を設置すると、定款の多くの部分に変更、追加が必要となります。
細かい点を修正していくというよりは、取締役会設置用の定款に置き換わると考えると想像しやすいかと思います。
一例として、次のような点に気を付けるといいかもしれません。
- 株主総会の招集期間を1週間以上とする。
- 代表取締役の選定方法を取締役会の決議とする。
(株主総会の決議によっても選定できると定めることは可能) - 取締役会と監査役を置く旨が定款から分かるようにする。
- 監査役の権限が会計監査権限に限定されている旨を記載する(限定する場合)。
- ≫みなし取締役会決議ができるようにしておく。
- 中間配当ができる旨を記載しておく(必要がある場合)(会社法第454条5項)。
取締役会設置までのスケジュール例
取締役会を設置するには、少なくとも株主総会の決議を得ることが必要です。
スケジュールの一例は、次のとおりです。
取締役候補者の検討、監査役候補者の検討 取締役、監査役の報酬の検討 定款の内容の検討 |
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取締役の決定(株主総会の招集決定) | |
株主総会の招集通知の発送 | |
株主総会の決議、取締役・監査役の就任承諾 取締役会の決議、代表取締役の就任承諾 |
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登記申請(2週間以内) |
取締役会設置と登記手続き
取締役会を設置すると、少なくとも次の登記事項に変更が生じるため、その変更登記を申請します。
- 取締役
- 監査役
- 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある旨 ※
- 取締役会設置会社の定め
- 監査役設置会社の定め
- 株式の譲渡制限規定 ※
※がついている事項は、必要に応じてその変更登記を申請します。
添付書類
この変更登記に係る添付書類の一例は、次のとおりです。
申請する変更登記の内容や会社の内容によって、添付書類は変わる可能性があります。
- 変更後の定款
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 就任承諾書
- 役員の印鑑証明書(一部、印鑑証明書以外の本人確認書類に代替可能)
- 印鑑届書(印鑑提出者が変わる場合)
登録免許税
この変更登記に係る登録免許税は、次のとおりです。
- 1万円 取締役変更、監査役変更、監査権限に関する登記 ※
- 3万円 取締役会設置会社の定めの設定
- 3万円 監査役設置会社の定めの設定、株式の譲渡制限に関する規定変更
※資本金の額が1億円を超える会社は1万円ではなく3万円です。
一緒に本店移転や増資等しない限り、最低限かかる登録免許税は7万円(または9万円)です。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。