商業登記関係 駐日英国大使館でサイン証明書(署名証明書)が取得できないことと代替手段
会社登記とサイン証明書
会社・法人の登記申請をするときに、取締役等の印鑑証明書の添付が求められることがあります。
例えば次のようなケースです。
- 取締役会非設置会社において取締役が新たに就任するときの当該取締役
- 代表取締役が新しく就任するときの当該代表取締役
- 代表取締役が届出印を改印するときの当該代表取締役
日本に住所の無い外国人は(日本の)印鑑証明書を取得することができませんので、当該外国人の印鑑証明書の添付が求められる登記申請においては、印鑑証明書の代わりに署名が本人のものであることについて本国官憲が作成した証明書(以下、「サイン証明書」といいます)を添付します。
駐日英国大使館とサイン証明
英国籍の人のサイン証明書が必要なときに、当該サイン証明書は本国官憲が作成したものである必要があるところ、駐日英国大使館は本国官憲に該当します。
ところが駐日英国大使館はサイン証明書の発行業務を現在行っていません(2018年6月現在)。
そのため、英国籍の人は日本でサイン証明書を取得することができません。
日本の公証人とサイン証明書
やむを得ない事情があるために、サイン証明書を取得できないときは日本の公証人が作成した証明書をもって、サイン証明書(ひいては日本の印鑑証明書)に代えることができます(平成29年2月10日法務省民商第15号通達)。
日本の公証人等の作成した証明書
外国人の署名につき本国官憲の作成した証明書の添付をもって,市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる場合において,当該外国人の本国の法制上の理由等のやむを得ない事情から,当該署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書を取得することができないときは,その旨の登記の申請書に押印すべき者の作成した上申書及び当該署名が本人のものであることの日本の公証人~~の作成した証明書の添付をもって,市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。
なお,署名が本人のものであることの証明書を日本における領事若しくは日本における権限がある官憲が発行していないため当該証明書を取得することができない場合~~には,日本以外の国における本国官憲において当該証明書を取得することが可能であっても,やむを得ない事情があるものとして取り扱ってよい。
≫登記の申請書に押印すべき者が外国人であり,その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することができない場合等の取扱いについて(通達)
上申書
日本の公証人が作成した証明書を、日本の印鑑証明書に代えて登記申請書に添付するときは、上申書も併せて添付をしなければなりません。
この上申書には、「当該外国人が居住している本国以外の国等に所在する当該外国人の本国官憲に確認したところ,署名が本人のものであることの証明書を発行していない旨の回答があった旨が記載されていれば足りる。(≫平成29年2月10日法務省民商第16号通達)」とされています。
外国会社への類推適用
外国会社の登記をするときは、その事実を証する書面として宣誓供述書を利用することが一般的です。
例えば外国会社の役員が変わった場合は、その事実を外国会社の代表者または日本における代表者が宣誓供述をして、その宣誓供述書をもって管轄法務局へ外国会社の役員変更登記を申請することになります。
さて、英国会社(イギリスに本店のある会社)が日本において外国会社の登記をするときに、駐日英国大使館で宣誓供述をしようとしても、駐日英国大使館ではその宣誓供述を現在取り扱っていないため行うことができません。
ここで、上記「平成29年2月10日法務省民商第15号通達」を類推適用して、日本の公証役場においても外国会社の変更を証する宣誓供述を行うことができるのではないかとも思えたのですが、登記申請をする必要があったため東海地方の法務局に照会をしてみたところ、消極に解されてしまいました。
事実関係を証する書面としては、不適当なのでしょう。
この記事の著者
司法書士
石川宗徳
1982年4月生まれ。早稲田大学法学部卒業。
司法書士。東京司法書士会所属
(会員番号:7210、簡易裁判所代理業務認定番号:801263)
2009年から司法書士業界に入り、不動産登記に強い事務所、商業登記・会社法に強い事務所、債務整理に強い事務所でそれぞれ専門性の高い経験を積む。
2015年8月に独立開業。2016年に汐留パートナーズグループに参画し、汐留司法書士事務所所長に就任。会社法及び商業登記に精通し、これまでに多数の法人登記経験をもつ。
また不動産登記や相続関連業務にも明るく、汐留パートナーズグループのクライアントに対し法的な側面からのソリューションを提供し、数多くの業務を担当している。