生成AI時代における会計業界の価値と経営のあり方
- 2026.09.10
- ビジネスの話
Claudeをはじめとする生成AIを活用し、業務工数を劇的に削減できているという話を頻繁に耳にするようになりました。単なる事務作業の補助に留まらず、思考の壁打ちや高度なドキュメント作成までこなすその進化には、目を見張るものがあります。こうした取り組みは、資本を投下して大規模に実行すればするほど、そのリターンが指数関数的に拡大するという特徴を持っています。この構造は、現在欧米のPEファームが会計事務所を次々と買収しているトレンドとも、一部関連していると感じています。
PEファームが会計事務所を評価する際、従来の12x EBITDAという評価ではなく、本格的なAI導入による「人件費80%削減」を前提とした「15x」で評価しているという話を以前聞きました。通常、12倍という数字でも業界内では十分に高い評価と言えます。そこにさらに価値を上乗せするという判断は、この業界が持つポテンシャルと、テクノロジーによる利益率向上の確信がいかに強いかを物語っています。
しかし、会計や税務という業務の本質は、単なるデータの処理や計算の効率化だけではありません。最終的な判断の重み、法的・倫理的な責任の所在、そして何よりも長年培ってきた顧客との信頼関係。顧客層によって変わってくるかもしれませんが、こういったものこそ私たちが提供する価値の中核を占めているはずです。
AIによって定型業務の効率が飛躍的に向上することは疑いようのない事実ですが、それが直ちに「業界全体で一律に人件費を80%削減できる」という結論に結びつくかどうかについては、慎重に見極める必要があるのではないでしょうか。
日本では、従業員の雇用やコミュニティとしての組織が比較的重んじられる環境があります。私自身も、共に働く仲間たちの雇用を守り、共に成長していくことを大切にしたいと願う経営者の一人です。AIによる大幅な人員削減を唯一の正解とし、それを前提に巨額の資金を注入してバリュエーションを吊り上げるような「数字至上主義」の経営には、正直なところ心の底からの心地よさを感じることができません。
テクノロジーがどれほど進化しても、最後に問われるのは「私たち人間にとって何が本当に幸せなのか」という問いではないでしょうか。効率化の先にあるのは、単なる利益の極大化だけではないはずです。お金という指標だけでは測れない、仕事のやりがいや生きる価値、そして人との繋がり。そうした手触り感のある価値を、これからもしっかり意識していきたいです。
