公認会計士制度の変化から考える、人材と組織のこれから
日本は、学歴に関係なく挑戦のスタートラインに立てる公認会計士試験の制度を持っています。これは世界的にもかなり珍しいケースといえるでしょう。かつて受験生が大きく減少した時期に、あえて受験資格を撤廃し門戸を広く開いたことが現在の背景にあるとも耳にします。誰にでも門戸が開かれているこの仕組みは、多様なバックグラウンドを持つ人材がプロフェッショナルを目指す大きな原動力となってきました。
一方で、かつて私がワシントン州でUSCPAを受験した当時は、試験自体は受けられたものの、実際にライセンスを登録・取得するためには厳格な必要単位数が定められていました。私自身も、日本の環境からそのままでは基準を満たせず、海外の大学院に通信制で籍を置き、追加で単位を修得するプロセスを踏みました。米国においては社会人であっても必要な学び直しや大学院進学が一般的なようだ、と深く印象に残っています。
これからのAI時代を見据えると、監査法人やプロフェッショナルファームが必要とする人材像や人員のあり方も、間違いなく大きく変化していくはずです。「公認会計士の資格さえ取得すれば就職やキャリアに困らない」というかつての安定モデルも、少しずつ形を変えていく過渡期にあるのかもしれません。実際、試験制度においても英語力が短答式試験の一部に取り入れられるなど、時代に合わせた変化が起きています。こうした流れを見ていると、今後はまた、一定の高度な学歴や体系的な学習歴を持つ層が再び中心となって受験する時代に回帰していくのだろうかなどと、ふと取り留めもなく考えました。
ただ、急速に変化する時代や制度の潮流にあっても、私たちが身を置くRSM汐留グループが大切にしたいあり方は変わりません。私たちは、学歴や資格のラベルだけで人を見ない組織でありたいと強く思っています。どのようなバックグラウンドや経歴を持っていようとも、プロフェッショナルとして自らのバリューをしっかりと発揮できること。そして何よりも、仕事や周囲に対して誠実であり、真摯に向き合える姿勢を持っていること。そんな本質的な魅力を持った人を積極的に採用し、丁寧に育て、長く同じ釜の飯を食っていきたい。
日々刻々と変わる業界のトレンドや社会構造に触れる中で、最近はそんな組織のあり方や人の育ち方について、改めて深く考えることが多くなりました。
変化の激しい時代だからこそ、制度や形に囚われず、目の前の人と真っ直ぐ向き合いながら、ともに成長し続けられる組織でありたいです。

生成AI時代における会計業界の価値と経営のあり方
- 2026.09.10
- ビジネスの話
Claudeをはじめとする生成AIを活用し、業務工数を劇的に削減できているという話を頻繁に耳にするようになりました。単なる事務作業の補助に留まらず、思考の壁打ちや高度なドキュメント作成までこなすその進化には、目を見張るものがあります。こうした取り組みは、資本を投下して大規模に実行すればするほど、そのリターンが指数関数的に拡大するという特徴を持っています。この構造は、現在欧米のPEファームが会計事務所を次々と買収しているトレンドとも、一部関連していると感じています。
PEファームが会計事務所を評価する際、従来の12x EBITDAという評価ではなく、本格的なAI導入による「人件費80%削減」を前提とした「15x」で評価しているという話を以前聞きました。通常、12倍という数字でも業界内では十分に高い評価と言えます。そこにさらに価値を上乗せするという判断は、この業界が持つポテンシャルと、テクノロジーによる利益率向上の確信がいかに強いかを物語っています。
しかし、会計や税務という業務の本質は、単なるデータの処理や計算の効率化だけではありません。最終的な判断の重み、法的・倫理的な責任の所在、そして何よりも長年培ってきた顧客との信頼関係。顧客層によって変わってくるかもしれませんが、こういったものこそ私たちが提供する価値の中核を占めているはずです。
AIによって定型業務の効率が飛躍的に向上することは疑いようのない事実ですが、それが直ちに「業界全体で一律に人件費を80%削減できる」という結論に結びつくかどうかについては、慎重に見極める必要があるのではないでしょうか。
日本では、従業員の雇用やコミュニティとしての組織が比較的重んじられる環境があります。私自身も、共に働く仲間たちの雇用を守り、共に成長していくことを大切にしたいと願う経営者の一人です。AIによる大幅な人員削減を唯一の正解とし、それを前提に巨額の資金を注入してバリュエーションを吊り上げるような「数字至上主義」の経営には、正直なところ心の底からの心地よさを感じることができません。
テクノロジーがどれほど進化しても、最後に問われるのは「私たち人間にとって何が本当に幸せなのか」という問いではないでしょうか。効率化の先にあるのは、単なる利益の極大化だけではないはずです。お金という指標だけでは測れない、仕事のやりがいや生きる価値、そして人との繋がり。そうした手触り感のある価値を、これからもしっかり意識していきたいです。

「自分で成果を出す」から「チームで成果を出す」へ
監査法人で専門職としてキャリアをスタートし、その後マネジメントへと舵を切る中で感じたことを、少しだけ共有させていただきます。プロフェッショナルファームか事業会社かを問わず、部下を持つどなたかの参考になれば嬉しいです。
まず最初に直面するのは、「プレイヤー」から「マネージャー」への意識の切り替えです。「自分で完璧にこなす」ことよりも、「チームで成果を出す」ことの方が、実は難しい。頭では分かっていても、実行に移すのは想像以上に大変なことです。
特に、最初は自分がやった方が早くて正確だと思ってしまいがちです。しかし、そこで口や手を出しすぎると、メンバーの成長機会が損なわれます。「育成し、任せ、信じる」というマインドへ転換することが、いかに大切かを痛感しました。
また、マネジメントでは感情を含む「人の課題」に向き合う場面が増えます。数字やロジックでは割り切れないことも多く、エネルギーを消耗し、時には余裕をなくしそうになることもあります。それでも真摯に向き合うからこそ、チームに信頼が生まれ、組織は強くなっていくのだと感じています。
専門性だけではカバーしきれない領域は増えますが、だからこそ新しい学びがあり、ソフトスキルも磨かれます。視野は確実に広がりますし、人を育てるやりがいは想像以上に大きいものです。
プレイヤーから一歩踏み出すことに迷いがある方もいるかもしれません。専門性を追求しながらマネジメントを担うのは並大抵のことではなく、バランスに悩むこともあるでしょう。
ですが、少しでも興味があるなら、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。挫折を経験した人ほど、人の痛みがわかる分、マネジメントに向いていることもあります。私自身もそうでした。
思っている以上に、やれることはきっと広がっています!

信頼を築くための身だしなみと振る舞い
- 2026.09.01
- ビジネスの話
見た目や振る舞いという、一見すると些細に思える要素で、必要以上に損をしないほうがいいと思っています。服装や髪型といった視覚的な情報はもちろん、清潔感、言葉遣い、そしてふとした瞬間の立ち居振る舞いに至るまで、これらはすべてビジネスパーソンを形作る重要な要素です。自分らしさはもちろん大切ですし、独自のスタイルを貫くことを否定するつもりもありません。しかし、よりよい仕事を手に入れたい、相応の報酬を得たい、あるいはより上のステージを目指したいと願うのであれば、こうした外側の部分を整えることは、避けて通れない戦略的な投資となります。
ビジネスの世界は、突き詰めれば他者との信頼関係の上に成り立っています。そこでは、「自分がどうありたいか」という視点と同じくらい、「相手からどう見えるか」という客観的な視点を意識することが大切になります。私たちはどうしても自分の内側に意識が向きがちですが、仕事を発注する側や、一緒にプロジェクトを進めるパートナーの視点に立てば、安心感や信頼感をもたらしてくれる身なりや振る舞いは、円滑なコミュニケーションのための共通言語として機能します。
もちろん、強いこだわりや個性的な価値観は、その人の人間的な深みや魅力につながる、とても素敵なものです。ただ、それらのこだわりをすべてビジネスの場にそのまま持ち込む必要は必ずしもありません。尖った個性や独自の哲学は、趣味やプライベートの世界で存分に発揮し、楽しむという選択肢もあります。もちろん、強烈な個性そのものが強力な武器となり、唯一無二の魅力として大きな成功につながる人も存在します。そうした例外的な才能や生き方を否定するつもりは全くありません。
ただ、多くの人にとって仕事とは、自分を表現する場であると同時に、相手から信頼され、選ばれ、最終的に確かな価値を提供する場でもあります。「自分は気にしない」ということと、「相手も気にしない」ということは、まったく別の話です。
自分のこだわりを優先するあまり、相手に違和感を抱かせてしまうとしたら、それはビジネスにおいて非常にコストの高い選択になってしまいます。
ですので、私は、ビジネスの世界においては、いい意味で「万人受けするようにカッコつける」くらいのマインドでいるのが、一番バランスがいいのではないかと思っています。奇をてらわず、多くの人が心地よいと感じるスタンダードな装いや振る舞いを心掛けることは、相手への敬意の表れでもあります。こうして処世術としてのバランスを重んじるあたり、自分はやはり少し保守的な人間なのだなと感じます。それでも、結果を出し続けるためには理にかなったスタンスであると信じています。
保守的と言われるかもしれませんが、私はこの「無理のない処世術」を大切にしながら、目の前の仕事へ誠実に向き合い続けていければと思います。
